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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 ホステス物語
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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」

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小説・大岡川ラブロマンス。其の一

◇なさぬなか
ラブ1-1
窓のところに置いてある盆栽のバラに新芽が吹き始めた。
オーナーの田原が訪ねて来るたびに下げてくる盆栽が数十、
ズラッと窓際からテラスの雛壇になっている棚に、行儀良く並べられている。
総てバラの盆栽ばかりであった。

「今年は大岡川の桜、何時頃から咲き始めるのかしら!」
アズサ(本名は恵美子)は、同僚の方にドレッサーの奥から声をかけた。
左肩から胸の乳房まで丸出しにしたサツキ(本名百合子)が、
「月末頃じゃない、去年は早く咲きすぎて、桜祭りの時には葉桜だったもんね。
 パトロンに春物を早くせびらなくっちや」クスッと裸の肩をすくめた。

思いは同じである。アズサは今夜パトロンの湯島が訪ねて来る日なので少なくとも
十万円はせびらなくてはと思っている。
その為には余程腕に撚りをかけなくてはいけなかった。
何しろ何し負うケチンボで、湯島のケチぶりはこの福富町界隈では鼻つまみになっていた。

だか、そんなケチな湯島も一旦財布の紐を解くとなると大きい。
アズサはその財布の紐を解かすコッをちゃんと心得ていたが、
それでもこの頃は中々その手には乗って来なくなった。

階下ではチーママの和子(本名も同じ)が不意に訪ねて来たオーナーを玄関で
咎めている声が聞こえて来る。ドレッサーの前に座っていたアズサを初め、
サツキ、ミドリ、リサの三人までがクスッと肩をすくめながら舌をだした。
ラブ1-2
オーナーと言われた田原大造は、横浜でも一、二の資産家で、此の店の出資者である。
店の名は“シルバーシャドー”ホステス、タレント総数40名程の中規模なキャバレーである。、
和子の姉治子がママで田原の後妻に納まっている。
*横浜・福富町には同名のソープランドがありますが、同店とは一切関係ありません*

「オーナーはちゃんと感付いたのねぇ」
姉さん株のミドリが言うと、
「チーママもチーママよ、あんな若造に夢中になって、
 昼日中に映画館なんか平気で行くんですもの」
歳下のサツキが伊勢崎町の映画館で偶然にも自分の斜め前の席に座っていた、
チーママと、情夫と言うより若いつばめの大学生を以前に見たと言う。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の二

◇指の戯れ
芸者秘話2-1
春とは言え、桜が咲くには間がある初春の宵は冷んやりとした肌寒さであった。
マンションの窓越しに“みなとみらい地区”の高層ビルの灯りが直ぐ近くに見えた。
「よく晴れた晩だわねぇ」
念入りに身支度を終えたアズサは、約束の日なのに同伴予定の客から連絡が
来ないので最前からヂリヂリしていると、
「しゃアズサさん、お先に・・・」
サツキが丸い肉付きのお尻をプリプリ振る歩き方でエレベーターホールに向かった。

エレベータの到着を知らせるチンが鳴るや否やミドリが、
「ふん、いい気なもんだね、どう言う気でいるんだろうね、
 今に罰があたるよ・・・そうなったら見ものだね」
何かにつけて、ミドリとサツキはイガミあっている。
それと言うのもミドリは馴染み客の一人をサツキに寝取られた事が有ったからである。

サツキは男なら誰でも好いと言う質であった。
札ビラさえ切ればサツキは日本人であれ、第三国人であれ、
若者であれ老人であろうが喜んで衣服を脱いで見せた。

店での接客マナーや芸事はミドリの方が一段も二段も上であるが、
サツキのこれと言って美人でもなんでもないが、見た目がポッテリとした
色の白い、言わば男好きのする質の女であった。
それも、男の目から見ると性的魅力と映るのであろう。

「好い体をしているな、サツキちゃんは」
などとボックス席では必ずサツキの身体つきが話題に成る程、
性的魅力があるらしいが、同僚のホステスからはサツキは除け者になっていた。
一種の羨望の嫉妬であった。

「その50万円を私が出そうじゃないか、
 その代わり箱根の私の別荘まで来て呉れなくっちゃ出さんぞ」
サツキは競馬か競輪かで勤め先の金を使い込んだと言って、
泣きを見せて来た父親に如何にかしても50万円を工面して遣りたかった。
「あら、それじゃミドリさんに申し訳ないわ」


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小説・大岡川ラブロマンス。其の三

◇思いがけない出来事
芸者秘話3-1
富士金属株式会社の社長である男の名はは小堀と言う。
社名からはどんな会社か想像し難いが、一種の屑鉄回収の会社で、
横浜市内に二箇所、綾瀬市に一箇所の工場を経営して、
相当ボロ儲けをしている屑鉄屋のボスであった。

話題のレアメタルを屑鉄の中から分離抽出する技術で、それこそ面白いほど、
儲け尽くした小堀は、この箱根に豪壮な別荘を構えたのが三年前。
バブル期に大手不動産会社が開発した別荘地に、これまた当時
絶頂に有ったメーカの保養所として建築された物件で有った。

「あら!!ずい分立派な別荘じゃないの、あたしこんな別荘で三日で好いから
 主人になって見たいわ」サツキはそれこそ度肝を抜かれた。
社交界でホステスを遣っていると色々な資産家や政治家や名士と知り合う。
時にはお屋敷に招かれたりもして、立派なお屋敷も度々見せて貰っていたが、
然し、小堀の箱根の別荘はずば抜けていた。

築山あり、川もあり、天然植物園ありで、こんな豪壮なお屋敷の主人公が
屑鉄屋のボスとは勿体無かった。物語にも出て来る公子様か何かが
主人公で、大勢の子女にかしずかれていてこそ相応しいようなお屋敷であった。

「気に入ったかね。君さえその気なら何日居ても好いんだよ」
小堀はそう言ったが、事態は急変した。小堀の経営する横浜の工場近くで
爆発火災があり、小堀の工場もその影響を受けたと緊急連絡が入った。
「サツキ君、わしは是から横浜に帰って状況を見て来るから、君は此処に
 泊まって待ってて呉れ、遅くとも明日の昼までには帰って来るから、
 待っていて呉れないか」
「私も帰ります」
「それじゃ何の為に来たか判らないじゃないか。約束の金は用意してあるから、
 渡して置くよ。好いね待ってて呉れよ」
「判りました、それじゃ気をつけて行ってらっしゃいませ」


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小説・大岡川ラブロマンス。其の四

◇野獣の微笑
和久井映見10
血に飢えた男にそんな啖呵は糠に釘であった。小男は目をキラキラと光らせて、
「殺されてもかまわねぇ。こんな罪な体をしているお前さんに罪が有ると言うもんだ。
 どれ一つ、舐めさせて貰うとしょうか」
ぐっと指で秘肉を押しわけるや、風呂番の男はやにわに唇を押し付けた。

「あッ!な、何てことを・・・恥知らずなことを・・・は、離してよ」
サツキは声を立てた。シーンとした夜の邸内には誰一人住んでいないらしく、
松の葉が風で鳴っているばかりであった。サツキは諦めざるを得なくなったと悟ると、
「今度言いつけて遣るからそう思うがいい汚らわしい。お前みたいな男に・・・・」

悔しがる女の声を耳にもせず、風呂番の男は犬が水を啜る様な音をさせながら、
長い舌端を奥に入れたり出したりした。時々歯で急所をきゆっと噛む。
「あぁッ!」
生身の悲しさ、例え醜悪な男から手籠めにされては居ても、痒い所は痛む。
サツキは男から色々と口には言えない様な玩弄を受けて来た。
鼻の下の長い男達はサツキに、砂糖に群がる蟻の如く群れ集まる。
札束を投げ出してはサツキの肉体の前で随喜の涙を流す。果てには色々な
嫌らしい所作を求める。時には、「どれ、舐めて上げ様か」と股間に顔を埋める。
がそれはそれまでゝある、余りいゝと思ったことはなかった。

が、然し、今夜の風呂番の男の場合は違うようだ。貧しい破れ半纏の小男は、
サツキの肉体に全生命を賭けている。主人に見つかったり、言いつけられたら、
其の場で首になる。それを覚悟で彼はサツキの肉体に挑んで来ていた。
倦怠期1-2
旦那連中は金さえ払えば、サツキの肉体を自由に出来るが、
この風呂番の場合は違う。無理に手籠め同然に、両腕を後手に縛ってから、
こうして唇で舐めている。熱の入れ方が金を払って肉体を自由する男達とは
違っていた。生命さえを覚悟した男の愛撫・・・。

思わずサツキは目を閉じると、両脚を拡げてフーとタメ息をついた。
膿んだ箇所を鋭利な刃物でほじくるような快感が、
風呂場の男の舌が動くたびにジーンと背筋を走った。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の五

◇ホステスとパトロン
芸者秘話3-2
ミドリが散々サツキの悪口を言って居る所へ、
「アズサさあん!永楽さんからお迎えの車が来ましたよ!」
とチーママの声でインターホーンが呼んでいた。
「じゃ、お先に・・・」
と座を立ったが、遂に今日の同伴の相手からの連絡は無く、
急遽オーナー田原の経営する割烹料亭“永楽”へ臨時コンパニオンとして
派遣されたのである。

マンションの玄関を出るアズサの耳にチーママの和子とオーナー田原の
痴話喧嘩の声が聞こえて来た。
「そんなシラを切ったって、ちゃんとしたネタが入っているだぞ、
 相手は大学生の若造と言うじゃねぇか、えゝ、そうだろう・・・」

県議会の総務であろうが、そこいらのあんちゃんであろうがヤキモチの
妬き方は一様に同じだと思いながら、アズサは迎えのタクシーに乗った。
同伴を約束したパトロンから今度約束を破る様だったら、
そろそろ他にパトロンを探そうかと思っていると、
「はい、永楽さんですよ」と運転手の声がした。

永楽の座敷にはこの頃チョイチョイ新聞に派手に広告している金融会社の
専務下田氏と、県庁の役人達が五、六人。座卓を中にして酒杯が乱れ飛んでいた。
「いよう別嬪!待ってました」
座の中から声が掛かった。コンパニオンの中に妹の千恵子が居た。

「お姉さん、こんばんわ」
妹が座を立ってアズサの側に来ると、
「何だ、お前達姉妹だったのか?そう言えばよく似ているね」
と、下田が言った。
「ご存知無かったの?姉妹コンパニオンで有名なのよ」
先輩格のコンパニオンが言った。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の六

◇嬉しい夜
芸者秘話3-3
「ねぇ、先程、噂を聞いたって、それ、どんな噂なんですの気に成るわ」
「何だ知らないのか?湯島と言う男は君も知っているだろう、ライバル店の○○の
 幸恵と言うホステスを囲ったって言う話じゃないか、
 本牧辺りのマンションに住まわせて居ると言う話だったよ」
「そうなの、そのことなら知っているわ、ねぇ呑みましょう」

わざとアズサは知って居る風を装ったが、下田のその一言は流石のアズサも
アッと驚くと共に泣くにも泣けない悔しさで胸の中が煮え繰り返る思いであった。
その胸の中を抑える為に、下田と杯を交わしている中でハッキリと心は決まった。

下田は景気がよさそうである、うんと下田に取り入って、湯島を見返して遣らない事には
腹の虫が治まらなかった。自分と言う女がありながら、しかも同じ福富町の隣接店の
ホステスを内緒で囲ったと言われちゃあ、この界隈の笑われ者になるに決まっていた。

出た時には星が降るような空であったが、“春の空と女の心は”当てに成らないと言う。
ポッポッと降って来た。近所のスナックから洩れ聞こえる下手な演歌が流れてきた。
アズサはやっと煮え湯を呑まされたような胸が幾らか落ち着くと、
「ねぇ、しいさん、キッス、キッスして頂戴!」
乱れ裾さえ燃えるような湯文字を雫してアズサは下田の顎に白い腕をまわした。
*湯文字とは和服の下に着ける腰巻のこと*

鼻の下にキザなチョビ髭を生やしていても、下田は四十二歳の男盛りであった。
ピチピチとした健康な肉体から溢れる若さがアズサを驚かせた。
チョビ髭さえ取ればそこいらの俳優にも劣らない美男である。
嫌味の無いきりっとした金融界の大物の貫禄もあり、教養も有ってアズサには
今までの男には無いものを強く感じた。

「どうしたんだ?変だぜ」
紅い粘っこい唇から離れた下田は、これまで色々な女と遊んで来たが、
こんな激情的な女は始めてであった。
「どうもしないわ、あたし、今夜は無性に嬉しいのよ、ねぇ、抱いてぇ、
  強く、強く抱いてぇ、ねぇ、胸が潰れる位強く抱いて頂戴!」
「何だ、まるで子供みたいに・・・こう、こう抱くのか?」
「そう、そうよ、もっと、もっと強く・・・」

雫れた湯文字の下に白いふくらはぎが覗いていた。
是までに大勢のパトロンを変えて来たアズサは、生まれて初めて若い男性に
骨が折れるほどの強い腕力で抱き締められると、唯それだけでも全身が
痺れる思いで、あ~っ、と気が遠くなるのであった。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の七

◇情痴の果て
芸者秘話4-2
それは大勢な男たちから、口では言えない様なことを、色々と悪戯されたが、
云わばそれはその男へのお勤めの一つでしかなかった。
老齢な男は執拗にアズサの肉体を、一時間も二時間も掛けて玩具にする。
が、体は燃えて来ても、感動は一度もなかった。時には気を遣ることもある。
鼻も鳴ったし、甘えもして来た。が、それは自然に欲求して来た肉体が発散したもの、
つまり、小用や大便をするのと同じさようでしかなかった。

下田との今夜の場合は全然違っていた。
肉体が燃えるという、その肉体の燃え上がるそれであった。
男の唇が乳首を吸うたびに、男の指が肉体の奥をまさぐるたびに、
アズサはジーンと骨身が痺れて来た。

「ねえ、もう止してェ、あたし、泣くわよ、泣くわよ、本当に・・・あぁ・・・しいさん!」
思わず男の唇を何度も求める。パッパッと花火が出るような一瞬が遣って来る。
アズサは恥も外聞も忘れ、太腿を大きく広げると、いつしか男の股間に手を差し込んだ。

「ねぇ、見せて・・・貴方は平気なの?アラ!まあ!あたし・・・知らないわァ」
思わず手を引っ込めた。客達の猥談の中で木マラと言う言葉を耳にしたが、
下田の逸物は丁度それであった。カチカチに堅くなったものがピンピンと脈打っていた。
再び、そっと握って見た。

「ねぇ、凄いのねえ、そんな優しいお顔をして、随分憎らしいものを持っているのね」
そっと夜具を高く持ち上げると、奥を覗いて見た。見事な物がピクピクと脈打っている。
「それは今から君の息子だよ、大事に可愛がって呉れよ。
 それに、これは今夜から私のものだ。ねぇ、アズサ」
「えぇ、そうよ、これはあたしの大事な坊やよ、あたしのそれは貴方の娘よ、ふゝゝ・・・」

一糸纏わぬ逞しい肉体が、ふくよかなアズサの身体をねじるように横抱きに
「落松葉」の体位で、男に寄り添ったアズサの太股を高く突き上げ、
逸物はアズサの陰唇に僅かに潜らせ、指先がその上にピヨコンと突き出した
淫核を巧みにモゾモゾ と弄り、時々陰茎を抜き差してピクンと脈打ちだす度にアズサは、
そのもどかしさに、陰門を擦り付けて逸物を一気に飲み込もうと焦り狂う。

男の巧みな前戯はアズサの官能を掻き立て欲情をそそる。 「フッゥーン・・・」
亀頭を含んだ陰唇が少しづつ締め付けて来る。 赤黒く充血した亀頭が
ヌルヌルと少しづつ深く食い入って行く。 其の度に彼の一物は膣から滲み出る液体で滑らかな
動きとなって大きく動く。そして其の逸物は根元までビッショリ濡れて光っている。

再びアズサの性感が昂ぶり、息遣いも荒く、呻きと共に腰が激しく動いて、
男の腕をつかんだ。指先が痙攣して、爪先を深くその腕に突き刺してもがいた。
その時彼は淫核を弄んでいた手で高く上げたアズサの片足のを膝の後をグッと押した。

尻の半分がグッと持ち上がり女体が後ろ向きの体勢に変わると、
男は力を込めて腰を押し付け、逸物を根元まで食い込ませて、腰を一捻りした。
亀頭の先が子宮口をこね回すと、その亀頭を子宮口が咥え込んだのでは
なかろうかと思われる程に贓物が逸物にまつわりつく。

捩れ、捲れた陰唇に挑んで急激に逞しいボリウームで五回六回と突きまくると、
アズサは身を捩り、 歯を食いしばって、ヨガリ泣いた。
「アァァ・・・ウゥゥ・・・モ・・・ウ・・・ダ・・・メ・・・キタ・・・キタ・・・ワ・・・」

アズサの肉体がオルガスムスに達したようだ。
その昂ぶりがもたらしたヌルヌルの液体の噴出に下田の逸物が激しく感応し
ドックンドックンと精液をほとばしり出た。 残快の喜びにさ迷うアズサの膣肉がピクピクと
震えて男の逸物を締め付けて離さない、 暫く其の侭の体勢で余韻に浸る二人で有った。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の八

◇三下り半
芸者秘話5-2
柳家の離れ座敷から近くに見える、旭橋の所に大岡川桜祭りに備えて屋形船が停泊していた。
若い船頭と数人の大工が屋根の補修や提灯を取り付けている。
桜が咲くにはまだ一週間程先で有ろうが、夕暮れの太陽が傾く川面はすっかり
春らしくなって来た。アベック組が夕闇を利用してそっと抱き合う下心から、
あっちこっちにボートを浮かべていた。

「いいわねぇ、あたしはあんな楽しい恋愛をしたことが一度もなかったけれど・・・
 一度しいさんを誘って見ようかしら」
心の中で呟いているその時、廊下を伝わってくる重い足音がした。
アズサのパトロン湯島であった。

「昨夜は何処で誰と浮気してたんだ!」
部屋に入って来るなり、電柱の様に突っ立って頭の上から怒鳴る湯島に、
「大きなお世話よ、あたしが誰と浮気をしようが、ふン、貴方に関係の無い話だわ」

売り言葉に買い言葉であった。あれだけ頼んで置いた同伴出勤に、
なんの連絡も遣さないでドタキャンするなんて、アズサの面目丸つぶれにしたばかりか、
事もあろうか、自分と言う女がありながら、隣接のライバル店に勤める幸恵を妾に内緒で
囲ったと言われちゃパトロンも何もなかった。

「何ッ!この野郎が・・・それが、それがこのスポンサーに対する態度か!」
目を剝いて床を蹴るのを、
「ふン、スポンサーも無いもんだわ、あたしはねぇ、はばかりさまですが、
 貴方の様な道の外れた事をしているスポンサーを貰った覚えはありませんよ、
 今日限り貴方との関係は終わりにさせて頂きます、出て行って下さい。」

アズサが座を立とうとすると、急に湯島の方が折れて出た。
「いやに強気じゃないか、幸恵の事を怒っているのか、
 あれは確かに俺が悪かった。だからこそ今朝早くから何回も電話してたんだ」

大勢の人間を使っている造船会社の専務である彼は、相手の心を見抜く術を
知っていた。アズサに比べ細かい処に心遣いの出来ない我が侭な幸恵に
毎月のお手当て30万円を渡すのが惜しく成って来たのだった。
しばらく辛抱していたが、アズサの様な心根の優しい女を手放すのが
急に惜しくなり、今朝早くアズサの携帯に電話を掛けた所に着信拒否に合い、
和子の処に電話したところアズサは昨は夜寮に帰っていないと言うのであった。

そうなると男と言うものは不思議なもので、如何してもアズサを離したくないのであった。
会いたくないと言うのを無理やりに今夜柳家に誘ったのである。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の九

◇ユニクロファッションの大学生
芸者秘話5-3
今時の大学生の定番に成っていると言うユニクロファッションで身を包んだ、
背の高い、がっちりとしたスポーツマンらしい学生の姿を見ながら、
「えぇ、そうですが・・・貴方は?」
「やっぱりそうでしたか。僕は早川豊と言います。神大の学生です。
 実は妹さんの千恵子さんとお会いしてきたんですが・・・、
 先程から此処でお姉さんをお待ちしいたんです。」
「そうですか、妹をご存知なんですね」
「えぇ、ちょっとしたことから半年ほど前から知り合いました」
「全然聞いていなかったわ。あの子はあたしに何も言わないんですもの、
 こんなところでは何ですから、あたしの知って居るお寿司屋さんが、
 近くに有りますから、そこへでも行きませんか」

アズサは並んで歩きながら、大学生の肩の処しか背が届かないので、
「こうして歩くとまるでお兄さん見たいですね」
と、笑って見せた。大学生は照れて頭を掻いた。寿司屋の二階座敷に向い合って
相手の学生を見ると、キリッとした鼻筋の通った美青年であった。
惚れ惚れするほど、顔形に品があったが、生活はそれ程豊かでもないらしくて、
靴下には穴が空いていた。

「何ですの、お話って」
「大変お気を悪くするかも知れませんが、
 僕の兄貴が会社のお金を使い込んで遊びを止めないんです。
 どうも兄貴は千恵子さんに夢中になっている様子なんで、
 僕は、如何にかして兄貴の遊びを止めさせたいので、
 千恵子さんに会って、それとなく兄貴に愛想尽かしして貰おうと思ったんですが、
 どうも、千恵子さんが・・・」
「あら!妹が言うことを聞かないんですか」
兄思いの大学生の表情つくづくと眺めた。

「いいえ、余りお若いんで、話が難しかったんです。
 それで、大変失礼とは思ったんですが、お姉さんである貴女とお会いして、
 お願いしょうと思ったんです」
「そう、そうだったの、ねぇ、豊さんと仰いましたわねぇ、
 豊さん。貴方は好い人なのねえ、良いわ、あたしが妹によく言って聞かせて、
 お兄さんにはもう二度とお店に来ないように、愛想尽かしをさせますわ。
 それで良いでしょう」
その時、注文した物が運ばれて来た。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十

◇夢色の朝
ゆびさきの詩9-3
朝、ふッと眼を覚ましたアズサは、
「あら!嫌だわ、あたし・・・」
真赤に顔を火照らせた。気がついて見るとパンティが夢色の為にびっしょり汚れていた。
そっと辺りを見回すと、サツキとリサが軽い寝息を洩らしているきりで、
カーテンの向こうには港の方から朝陽が赤々と昇って来るところであった。

中学を出ただけのアズサは、例え夢の中とは言え女子高生のセーラー服を着た
自分の姿が懐かしく思えた。大学生の豊とサッカー場で会った光景、
それからいきなり料亭の離れ座敷での体の関係・・・。
夢とはいえ、それこそ本当の抱擁と同じ肉の疼きが感じられた。

カーテンを開けるとバラの盆栽の花壇がズラッと眼の中に飛び込んで来た。
青々として新芽が吹いているのが、アズサは自分の胸の中のようにさえ見えた。

「あたしこの頃、どうかしたのかしら」
下田と云い、大学生の豊と云い、アズサの胸中には若い男性に憧れる血で一杯であった。
老境に達した金満好色家達の玩具に甘えていた自分の境遇が急に、
バカバカしいものにさえ感じられた。

若い下田にしても、金銭で自分を玩具にしている。が、大学生の早川豊は違う。
たった一度の顔合わせでは有ったが、彼には下田のように財力も地位も無いが、
彼には誰にも見られない汚れの無い青春と、夢と、若さが溢れている。

その若さと青春に理知が備わっている。それは金では買えない尊いものである。
アズサは盆栽のバラに水を遣りながら、昨夜逢った大学生の早川豊を、
どんなことをしても手離すまいと思い定めた。

「そうだ、好い事が有るわ」アズサは昨夜の豊の言葉がふっと思いだされた。
「このお金は来年イギリスに留学する時に使う積りだったお金です」と、
ならば、このお金は此の侭貯金して置いて上げて、下田から貰った同額の百万円を
妹に渡せば同じ事である。そして彼が留学の時にこのお金を用立てて遣れば良い。
アズサは改めてハンドバックを引き寄せると、昨夜彼から預かったお金を改めて見た。

今日は店の“ショータイム”の折に披露する、新舞踊の稽古の日であった。
何時もよりは、早めに起きたアズサは妹の千恵子の処に電話を掛けようかと、
階下の談話室に降りて行った。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十一

◇愛の書簡
和服美女15
妹の千恵子はパトロンと関西に行って留守だと言う。
大学生から頼まれた一件が気に成って仕方が無いのであるのに、
千恵子は一週間が過ぎても中々帰って来なかった。

新聞にはボッボッと大岡川の桜が咲き始めたと写真入りで報道されていた。
陽炎が燃えるのを窓越しに眺めながら、アズサは壁際の小机に向かって、
手紙を書いていた。
ーーー
この前の晩にお逢いして頼まれた件、妹が京都、奈良方面にお客様と旅行に行っているので、
今日の日までお約束を果たせないで居ります。必ず貴方のご意志の様に解決いたしますから、
その点、ご安心下さいませ。

この頃、時々貴方の夢を見ます。こんなはしたない事を言うと、貴方に軽蔑されそうですが、
私、一目貴方を見た時から、年甲斐も無く貴方が好きに成ってしまいましたのよ。
本当、嘘じゃありません。お兄様の為に、外国への留学費用まで投げ出す、貴方の美しく
優しい心使いに、そして貴方のきりっとしたお顔、スポーツマンらしい逞しいお体、
私はこうした商売の女ですが、初めて貴方の様なお方にお逢い致しました。

汚れている体の私ですが、時々、お逢いして下さいませね、
私の方で貴方の予定に合わせますから、私の様な女では駄目でしょか・・・。
それにお約束のサッカーの試合、私忘れて居りませんよ。
必ず切符を送ってくださいね。

貴方にお会いしたあの日の夜、行った事もない日産スタジアムに行った夢を見ましたのよ。
詰襟の学生服姿の貴方がスタンドで大きな応援団旗を高々と振り上げている、凛々しいお姿・・・
その時、私はどんな姿であったと思う?可笑しいじゃありませんか、私がセーラー服を着て、
三つ編み姿で居るのよ。まるでテレビの青春ドラマじゃないですか・・・本当に可笑しいでしょう。

それから・・・ふゝゝ、でも、後のことは言えないわ。それは、それはもう甘い、楽しい夢でしたの。
生まれて、こんな楽しい幸福な夢は初めて・・・
本当に、朝、眼が醒めてからそりゃもう恥ずかしかったわよ。

お約束の件が無事に片付いた時には、ご褒美に何処かに連れていて下さいな・・・
早川豊様              貴方をお慕い申して居りますアズサ(本名:高橋恵美子)より


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十二

◇肉体の惑溺
芸者秘話7-2
「そりゃぁ、あたしもプロの端くれだから、どんなフニャチンだって選り好みなしで、
 勃たせて上げる自信はあるわよ。
 大体私達のパトロンに成る様な爺さんは大抵フニャチンだものね・・・」

「僕は君のその体を見ると、もう、我慢出来ないんだ。
 それに、君のその唇が色ポイこと・・・俺は、随分色んな女優とキッスもしてきたけど、
 サツキ、お前の様な色っぽい唇は初めてだ」

「そう言いながら、彼は自分のモノをあたしの手に握らせたまま、
 それはモウ大変なデーブキッス・・・あたし、もう舌が抜けるかと思った位よ。
 彼のキッスを受けているうちに、段々とあたしの掌の中で、大きくなるじゃないの。
 あたしも、そうなると腹が据わって、一つ、 人気俳優をからかってみょうて気に成るじゃないの。
 そろそろと握ってたモノを強く上下に揉み上げていると、 グンニャリしていたモノが
 段々と威勢がよくなって来て、カリの先端が真赤に充血して来ると、ピクピクと動くのね、
 ここで出させチャ面白くないと思って、竿の根元をギュツと強く握り締めてやったのよ。
 そしたら出したのに出ないもんだか、竿全体が上下にピクピクと痙攣して、
 腰をガクガクさせて、(ウゥーツ)と呻いたら、段々チンポが柔らかく成り始めたの、
 スペルマが膀胱の方へ逆流していったのね。男ってこれが凄く快感なんですって。
 彼は私に弄らせながら」

「君はなかなか弄るのが上手なんだね。なかなかこれは易しい様で難しいもんだがね、
 あぁ好い気持ちになった。どれ、君のものも一つ俺に弄らせて呉れないか、
 なんだったら弄らせっこをしょうじゃないか、弄らせて、先に気をやらせた方が勝ちだ。
 君が、俺に勝ったらこの金の腕時計を上げよう」

「彼は私の裾の中に手を入れてから、パンティを剥ぎ取ると、裾の前を大きく拡げてから」
「いい道具をしているじゃないか、ブスッと挿れたら、随分好い気持ちだろうね」
「つくづくと太腿の奥を覗き込みながら、そう言うと、指をぐっと突っ込んで見るのよ、
 随分失礼な人よ。
 じゃあ、やりましょう、あたしが勝ったら本当に、その腕時計を呉れるわねぇ。
 念を押してみると、『ああいとも、本当に上げるよ』と言うじゃないの、
 じゃぁ、よーいドンで始めましょう。いいこと・・・・よーいドン」


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十三

◇パトロン下田の事
芸者秘話7-3
一頻りサツキの独演会に付き合って居る所に、
「アズサさん、下田様がお客様を、お連れに成ってお見えに成りましたよ」と、
ウェイターの通称ケンちゃんがアズサを呼びに来た。
これ幸いとアズサはチーママの和子と共に玄関口で下田一行を出迎えた。
客数は下田を含めて五人。接待するのはアズサ・ミドリ・サツキ・他に新人の
アカネとミユキの五名それに適時チーママが付き合う。

本日のショータイムはタレント十名によるハワイアンダンスショー。
本来ならばダンスの得意なリサが中心に成って構成されるのだが、
リサは湯河原から未だ帰って来て居なかった。

凡そ二時間半の酒宴は十時頃に終わり、下田は桜木町駅まで客を送って行った。
店を出る時に下田は、「料亭銀波で待ってるよ」とアズサに耳打ちした。

アズサは下田との約束が有るからと、店がカンバンに成る前に仕事を切り上げて、
料亭銀波の離れに行くと、「随分待たせるじゃぁないか」と既に着替えを終えた、
下田が、湯上りの後、独酌で呑んでいた。
「あら、これでも、早めに来た方よ」とピッタリと側に寄り添っうと、

「辛気臭いじゃないの、独りで・・・ねぇ、三味線でも弾きましょうか、
 あたしこんな替え歌を覚えたわ、ねぇ聞いて・・・テレビ“笑点”の林家菊翁の歌真似で、
    ここは私のおXXこです、 おXXこの上にはヘソがある、
    ヘソの上には乳がある、 お乳はおXXこのベルですよ、
    ベルを押せばすぐ響く、  響けばおXXこがかゆくなる。

「ねぇ、どう?、好い唄じゃない、少し品が無いけれど・・・・そのものズバリで、
 好い唄でしょう、ねぇ、しいさん、ベルを押す前にキスをしてェ、ねぇ、しいさん」
甘えながら男の胸の上に覆い被さる、不意を喰らった下田は後ろに倒れながら、
アズサの可愛い唇を吸う。、神経が糊の様に蕩けて行った。
一日の疲労がこの一瞬に煙のように飛んで行くのが下田には判った。 
   
「君は本当に無邪気なんだね、まるで子供じゃないか」
下田は二年程前から妻とは別居していたが、女がこれ程可愛いものとは今まで
一度も思ったことが無かった。良家のお嬢さんであった妻は、下田とは事毎に水と油であった。
下田が右と言えば左、左と言えば右、前と言えば後と言う具合に、夫婦生活三年の間に、
一度も意見が合った事が無かった。

我が侭一杯に育ったせいでもあろう、浪費癖の甚だしい事と、平気で家を外にして、
男友達を作っていた。「お前という女は、バンプ (bump)だ!」
時には寝室に男を連れ込んで、あられもない情痴に狂ってもいた。
妻は一種のサディストで、男を苦しめては
エクタシーを覚えると言う質であるらしく、そのサディスト振りも度を越していた。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十四

◇可愛い女
和服ヌード009
「そうよ、あたしは、子供よ、ねぇ、抱っこしてお布団まで連れてって」
アズサは首に腕を廻して甘える。
「よぉし、寝かせて上げようぜ、本当に手の焼けるお嬢さんだ」
「ううん、バカァン、もっと丁寧に抱いてくれなきゃ嫌よ、それから、
 帯びも、着物も足袋も、パンティも全部脱がして頂戴よゥ」
「あぁよしよし、全部脱がしてやるから、おとなしく横になっていな」

どんな不器量な女でも、男に甘える女は魅力があるものだ。
ましてやNo1のホステスと言われるアズサから、こう甘えられては、
鼻の毛を抜かれても惜しくはなかった。

「そんな大きなお目々で、いやアン、助平、覗いたりしちゃいやアよゥ」
「あぁわかったよ、手の焼ける子だ、子供にしちゃ、ずい分大きなオッパイだなぁ」
「アッ、バカァ、助平ねぇ、オッパイをさわっちゃ承知しないから。
 それに、アソコも今夜は駄目よゥ」
「おいおい、それは酷すぎるじゃないか、そんなのないよ」

「絶対駄目よ、此間はアソコが痛くて、痛くて半日歩けなかったわょ、
 今夜は貴方にウンとお灸を据えるんだから・・・
 あたしと言う女を自由にするには、貴方は絶対に他のホステスに、
 手をださないという約束をして呉れなくちゃ、あたしだって浮気してやるから」
「何だ、いやに信用がないんだな。大丈夫だよ、その点」

「ううん、信用できないわ、男はちょっとの間にも、摘み喰いをして、知らん顔を
 決め込むんだから駄目よ、此間はよくもあたしのパンティ脱がせて呉れたわねぇ」
「あぁ、此間は、脱がせてやったよ、でもあれは合意の上じゃなかったのかい。
 今日のこのパンテイは随分変わったパンテイだね、是ストリップ嬢が履く、
 スパンコールじゃないか」

「ふゝゝゝ、何でもご存知なのね。そうよ、スパンコールよ、明日からは、
 貴方にも是と同じものを穿いてもらいますからね、是なら恥ずかしくて、
 他の女の前ではズボンも脱げないでしょう、ねぇ、いゝわねぇ」
アズサは裸の上半身をむっくりと起こすと、いきなり男の急所をギュッと掴んだ。 

下田はこれ程可愛い女を一生離すまいと決心をしながら、むっちりと盛り上がった
太腿の奥を覗き込むと、、ゴクッと生唾を飲み込んだ。
「イャよぅ、そんなに覗いちぁ、はやく、はやく・・・ねぇ、いやよゥ」
甘えながらぐっと太腿を左右に拡げて、促すアズサの白い肉体は、
妖し気に青白い蛍光灯の光で蚕くと見事に盛り上がった双の乳房が大きく弾んだ。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十五

◇嬉しい玉の輿
芸者秘話8-2
桜(はな)日和が来ると、女も山水草木の様に一年中で一番美しくなる。
艶々とした女性のヘェロモンが男性の五感を刺激する。

豊艶な腰辺りの肉付き、むっちりと盛り上がった胸の隆起、生き生きとした双眸の輝き、
濡れたように潤んでいる赤い唇・・・サツキは二十五歳の女盛りである。

16才の時故郷の信州を後に母親に連れられて横浜に出て来た。
未成年のアズサは二年間叔母の芸者置屋の下働として過ごし、日舞もそこで仕込まれた。
十八歳に成ってキャバレーのホステスに転向、接客仕事が向いていたのか、直ぐに
スポンサーが付いて七年の間に何人かの男の世話になり乍、今では店のNo1ホステスと
言われるまでに成長した。

「アズサさん、千恵子さんから電話が入ってますよ!」とマンションのインターホーンが呼んだ。
受話器を取ると、
「アラ!お姉ちゃん、私に何か用があるんですって、用事て何なの」
伊勢崎町に有るラジオ日本のサテライトスタジオからちょくちょく引っ張られている、
妹の綺麗な声が受話器から流れて来た。

「そうなのよ、とっても急ぐの、随分長い関西旅行だったわねぇ、
 暢気な娘ねぇ、ちょっと今から出て来て頂戴。ホラ、何時もの寿司屋に居るからね、
 なるべく早く出て来てね」
どうせパトロンの居る妹の事、早川と言う自営業者のボンボン社長など、
問題にはして居ないだろうけど、と安心はしていても、出来る限り早く解決して、
日産スタジヤムで逢う日に豊さんを喜ばせてやりたかった。

あの日大学生の早川と逢ったその寿司屋の座敷で注文したものを一つ二つ
摘んでいる所へ「あら!もう来ていたの、関西、良かったわよ」
と、普段着のジーンズパンツを穿いた丸いお尻を見せて座ると、

「ねぇ、お姉ちゃん、あたしも相談があるの、どうしょうかと思って、
 今迷ってるのよ」
行儀悪く、寿司を一つポンと口に放り込む妹に、
「何よ、行儀の悪いバカな娘ね、子供じゃあるまいし・・・何?相談ッて」 


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十六

◇愛に目覚めたチーママ
芸者秘話8-4
アズサが妹と別れて寮に戻って来ると、
「このアマ、もう許さんぞゥ!今までは大目に見て遣ったが、現場を抑えたからにゃ、
 もう許せん!お前の様なアマは懲らしめてやる!畜生メ!思い知ったかぁッ!」
一階のチーママの部屋ではオーナーの田原が今までにない激怒の為に、
大変な騒ぎであった。サツキとミドリの二人は二階に居なかった。

アズサは何事が起きているのか、大方の様子は察しが付いたが、
二階に上がる訳にも行かず、
「どうしたのょう、オーナー」
と、ドアーを開けた途端、アッ!と声を呑んだ。見るとチーママの和子が後手に
がんじがらめに縛られた挙句に、長い黒髪をバサッと崩して、乱れた裾からは
太腿の奥まで覗いている始末。

「どうもこうもねえ、このアマが若い男(大学生)と逢引をしている処を、
 わしが今日抑えたんだ。こう度々わしの顔に泥を塗られちゃ。
 もうこれ以上放って置く訳にはいかネェやな」

県議会の総務と言う地位に有る県政界の大物も、その道に掛けての妬気持ちは、
その辺の裏長屋の亭主と変わりは無いらしく、髭の辺りに唾の泡までくっ付けて、
チーママの太腿の奥まで調べ挙げた様子。
アズサはおかしいやら情けないやらで、吹き出しそうになったが、
「何を言ってるのよ、オーナー、ご自分の事は棚に上げておいて、
 チーママだけを責める事は無いじゃないの!
 あたし、何だったら此処で言いましょうか!」

アズサはオーナーの田原が、赤坂の方で浮名を流している事を聞いていた。
「何を言うんだ、お前は・・・バカな事を言うんじゃないぞ、わしは何も、
 やましい事はこれっぽっちも・・・」
流石の田原も是には度肝を抜かれた。内密に赤坂の若い芸者を水揚げしてから、
今までずうっと面倒を見ている女が居たからである。

「そら、ごらんなさい、これっぽっちも、噂の種を消す材料は無いと言うんでしょ」
アズサは前までは年甲斐も無く、チーママが若い大学生の男と、秘かに逢瀬を
重ねて居る事を軽蔑していたが、こんな泥沼稼業をしていると、どうしても、
自分の身に置き換えて、純真無垢な男に惹かれる事が無理からぬと、思い始めていた。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十七

◇狂い責め
芸者秘話9-1芸者秘話9-2
大岡川沿いの桜の花も散り、葉桜が青々と茂って来ると、そろそろ初夏らしい日々が続いた。
今年のキャバレー“シルバーシャドー”に於ける“桜祭り”でのアズサの新舞踊は
例年にない派手な所を見せた。

新たにパトロンと成った下田が金に糸目をつけずに応援して呉れたばかりか、
アズサは生まれて初めて恋をしている真っ最中なので、その日、その日に張りが有った。

落ち着いた本格的な日舞に比べ、アップテンポなリズムが似合う“新舞踊”は、
酔客には好評で若いアズサの得意芸である。
妹の千恵子もパトロンの平野に愈々囲われる身に成ったので、体に余裕が出来、
“特別出演”と言う形でステージに一緒に立って応援してくれた。

「暑くならない内に、京都、奈良でも一回りして来ようじゃないか」
一週間続いたキャバレー“シルバーシャドー”に於ける“桜祭り”の最終日。
骨休めに旅行をしょうと、下田から誘いを受けたが、アズサは日産スタジヤムに於ける、
関東六大学のサッカー試合が間近に迫って来ていたので、
「嬉しいわ、余り長いのは困るけど、五、六日なら如何にか成るわ」

試合が始まるまでに帰って来れば良いと思って、数日後、横浜駅22時24分発の
夜行寝台特急電車、サンライズエクスプレス出雲・瀬戸号に乗り込んだが、
その日は生憎の小雨が降っていた。

*JRの「サンライズエクスプレス出雲・瀬戸号」は浜松駅01時12分に発車すると、
 名古屋・京都・大阪では客扱いを致しません。次の停車駅姫路から新快速等で
 大阪や京都に戻る必要があります。*

「チーママは体調を壊して休んで居ると、聞いたが、その後どうして居る?
 今は滅多に顔を見せないママ(和子の姉で田原の後妻)が毎日来ている様だけど」
ラウンジカーの座席に腰掛けて、窓に降り付ける小雨の窓外を眺めながら下田は、
そんな事を言った。

「余り人には言えない事なんだけど、チーママは今オーナーの家で軟禁状態なのよ。
 若い大学生との逢引してる処が発覚して、そりやぁ酷い折檻を受けたのよ。
 オーナーはあの様な人でしょう、チーママを裸にして、アソコの中に指を入れて 調べたり、
 体にキスマークが付いて居ない調べたり、それでも飽き足りなくなって、チーママの黒髪を
 根元からプッツリ切り落として仕舞ったわ」

「男って勝手なものよねぇ、自分は赤坂の方に若い芸者を囲って居ながら、
 女の方で浮気をするとあぁなんですものね」
「へぇ、それは驚いた。髪の毛をねぇ。それじゃ丸坊主にされた訳か・・可愛そうに」
下田は呆れている。横浜を発車した列車は大船を通過していた。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十八

◇夜汽車の物語
芸者秘話9-4
熱海に近づいたのであろう。夜汽車は小雨の中のトンネルを出たり入ったりしていた。
「それでどう成った?」
県議会の総務として羽振りの良い田原の行状が下田には面白かったので、
話の続きを促した。

「チーママはもう真っ青になって気絶してしまうと、オーナーは今度はチーママの片脚を
 大きく拡げるじゃないの。先っきも言った通り、チーママはオーナーから大事な所を
 調べられているので、そこが丸見えでしょう。その丸見えの真赤に割れた柘榴の様な
 割れ目に指を突っ込むと、もう無茶苦茶ねぇ、中をヤタラメッタラに掻き混ぜ乍」

「よくもこれで若い男のチンポを咥え込んだな。もう二度と使えないようにしてやる!」
「気が狂った様な事をするのよ。あたしは、如何して良いやら、訳が判らないので、
 そこへ突っ立って居たの。するとオーナーは指で掻き回しただけでは気が済まないの、
 今度は立ち上がると茶箪笥の中から何かしら探して居たと思ったら、如何でしょ、
 驚くじゃないの。もうあゝ成る正気の沙汰じゃないのねぇ、唐辛子を手にすると」
「畜生ッ!もう使い物に成らない様にしてやるッ」

「オーナーはそう言うとチーママの大事な所をぐっと指で大きく押し広げると、
 唐辛子を大事な処へ一杯詰め込むじゃないの。すると如何でしょう、
 気絶して身動き一つしなかったチーママが、ウウッ!と身動きをしたかと思うと、
「く・・・苦しいッ!」って呻くのよ。
「あたしはもうチーママを見ていられなくって、夢中になってオーナーを突き飛ばして、
 あ、あんまりです!そ、それではチーママが余りに可哀想です、
 とオーナーの腕に噛み付いてやったの。その時ミドリさんが帰って来たので、
 二人でやっとオーナーを押し止めてチーママを介抱して遣ったけど、
 あんな柔らかい処へ唐辛子なんて詰め込んだものだから、チーママは余程、
 痛かったのでしょう、四、五日は動けなかったわ」

「へぇー、驚いたねぇ」
「そうでしょう、それから暫くしてからよ。再びチーママが坊主狩りにされたのは・・・」

そんな会話をして居る時、熱海駅から乗車したらい女が手荷物を持って、
ラウンジを通り過ぎようとした。
「あらッ!リサちゃんじゃないの?どうしたのよ、皆で心配して居たのよ」

リサは独りであった。
下田とは店で一、二度会っていたので、リサは下田の方に会釈をしてから、
「・・・アズサ姉さぁーん」と今にも泣き出しそうな顔で言葉を詰まらせた。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の十九

◇逃げ廻る女
芸者秘話10-2
パトロンから、「大事な手帳だから、この手帳を持って何処か人目の付かない所で、
暫く身を隠して居てくれないかと」と頼まれたリサ(本名理沙子」が三月二十日に、
横浜から姿をくらましてから、早二ヶ月が経過していた。
逃走資金として現金五百万と、他人名義の信託銀行の額面五千万の信託証券を、
貰いその日から姿を消したのであった。

ブランド物で着飾った派手なホステス姿では不味いので、髪をショートカットにし、
伊達眼鏡を掛けて、どこから見ても普通のOLと言う姿に変装した。
以前勤めていたキャバレーの同僚が、伊東の実家に帰り旅館業の手伝いを
しているのを、思い出し、その元同僚の両親に事情を話して、
「当分の間、此処に匿ってください」と、頼んだ。

昔気質の両親は匿って呉と哀願する若い娘を、放りだす様な事はしなかった。
「ねぇ、毎日ブラブラしていても、仕様がないじないの、何かここで遣って見ちゃ如何?
 そう言う事情なら当分ほとぼり何か冷めやぁしないから、腰を落ち着けて居た方が良いわよ」
親切心から言って呉れた。そう言えばそうである。何時までもお客様では居られない、
何か仕事をしなければ、体は鈍るし、所持金は消えて行くばかりである。

「それもそうねぇ、何かあたしに出来る商売ってあるかしら?」
「無い事も無いわよ。あたしが探して見てあげるわ」
真剣になって色々と考えた。
そんな時、伊豆高原駅の近くで築二十五年の格好な別荘の売り物が出た、
と元同僚の父親が教えて呉れた。

旅館にでも、小料理屋にでもそのまま居抜きで使用出来るばかりか、売値の五千万の
半金を入れて貰えば、後の半金は十年位の年賦で返済して貰えば良いと言うのである。
何人かの買い手が付いたが、元同僚の口添えで理沙子に話が決まった。

元同僚の父親に呼ばれて、娘と母親も同席した中で、
「今理沙ちゃんが表に出て多額の金銭を動かしたり、戸籍を移動したりしたら、
 警察の網に掛かってしまうから、理沙ちゃんは表立った動きはしない方が良い。
 当面は私が当館の別館と言う形で別荘を買い取ってあげるから、
 理沙ちゃんが持ってると言う、信託証券を私に預けない。
 そして現金はチビチビと大切に使いなさい」と有り難い事を言って呉れた。

そして今、その別荘を旅館にして如何にかこうにか遣っていると言うのである。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の二十

◇惚れた女
芸者秘話10-4
「理沙子さんも、ご存知でしょうが、近頃“低金利融資”で伸びて来た、横浜に本社の有る、
 “ほのぼの金融”の、専務取締役の下田と言う人を・・・。地元横浜でも相当浮名を
 流していると言うんですがね、ホラ、評判のホステス、アズサのパトロンですよ」
と言う話に理沙子は驚いて、
「あら!アズサ姉さんなら、あたしと同じお店で働いている女(ひと)よ。
 パトロンの下田さんも、あたし知ってるわ」

「へぇー、そうなんですか。こりゃ奇遇だ、実はね、その下田さんの妹に、
 千草さんと言う、お嬢さんが居るんですがね、その千草さんと僕とは、
 志賀高原ホテルのスキー場で偶然に会いましてね。そう・・・全く偶然にね」

倉田は当時の事が、ありありと胸の中に描かれてきた。
如何してそうなった知らないが二人は何時しか唇と唇をしっかと一つに合わせて、
熱いキッスを交わした後、やがてベッドの上に横たわった千草の体から、
スキーウェアの総てを脱がし去り、ピッタリと太腿に張り付いているパンティに、
手が伸びていた。

滑々とした脂肪盛の太腿の奥には、真赤に色づいたバラの様に魅力的な、
それこそ神秘境が隠されていた。こんもりと盛り上がった丘には、まばらな春草が
愛らしげに生え、その春草の下に咲いた花は柘榴のように割れていた。

「ねぇ、いやぁよ・・・そんなに大きな目で、見つめちゃぁいやよぅ。抱いてェ、抱いて頂戴!」
処女の羞恥に満ちた、哀願するような表情で両の腕を伸ばして来た。
むっちりと盛り上がった双の乳房が薄い肌着(キャミソール)の脇から覗いているのが、
ビーナスの女神のように神々しく見えた。

「お嬢さん、こんな素晴らしい芸術品を肉眼で鑑賞もせずに、
 いきなり歯を入れるなんて事は、貴女の美を冒涜するものです。
 ねぇ、永遠に貴女のこの美の極致である創造品を僕のこの両の目に、
 深く刻んで置きたいんです。ねぇ、いけませんか?千草さん」

「でも・・・でもあたし・・・恥ずかしいわ、そんな大きな目でご覧になるんですもの。
 ねぇ、光弘さん、それじゃホンの少し、少しだけよ」
ぴつたりと閉じていた太腿を。そっと拡げて見せるのだった。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の二十一

◇嫉妬
芸者秘話11-1
「千草さんとは志賀高原以来、時々、僕のアパートに来てる事もあり、
 やがては結婚することに成って居たんですがね、魔がさしたとでも言うのか
 僕は千草さんの義姉つまり下田さんの奥さんと妙な関係に成ってしまったんです」
理沙子は呆れた顔をして見せて、
「まぁ!倉田さんって浮気者なのね、いやァなひと・・・それでどうしたのよ」
「その奥さんが酷いヤキモチ焼きなんですよ。僕と千草さんの仲を羨んで、
 無理矢理に他に嫁に遣ってしまったんですがね、何しろ後に成って判った事なんですが、
 その奥さんはえらい浮気な奥さんで、方々に男が居るんですがね、ぼくもそれっきり・・・
 それからずっと、女の人との関係はありませんよ」

と、倉田が語り終わったその話を、夜汽車の中でリサがアズサに話し終わると、
「へぇー不思議な事もあるものね」と、感心する。
「でも良いじゃないの、その倉田さんと出来ちゃったって・・・
 後でパトロンが保釈で帰ってきたら、はっきりと打ち明けて了解を得れば・・・
 一生男の囲い者で暮らすより、倉田さんの様な方の奥さんに納まった方が幸せよ。
 ホステス商売なんて若いうちだけのものよ、歳をとってしまえば何れ見放されて、
 誰からも相手にされなく成るものよ。
 義理は義理、恋愛は恋愛、この際ハッキリした方が良いわ」
「アズサ姉さんがそう言ってくれると、なんだかホッとして安心したわ。
 実を言うとねあたしその事で、浜松に居る兄の処へ相談に行くところだったの、
 もう行かなくてもいいわ、 行けば今度の事件の事で兄の処にも警察の手が
 廻っているかもしれないし・・・」
「お店の方は、私からオーナーやママに旨く話しておくから、倉田さんを陥落させることよ」
リサは静岡駅で下車して一番電車で伊東へ帰っていった。

京都、奈良の旅の宿で、アズサは火の様に燃えて行く自分の体が、虚偽の世界、
砂上に築いた楼閣の様に崩落し去るのがわかった。リサと偶然に車中で会ってから、
「あたしも、こんな男の性の慰み者としての生活から早く足を抜かなくては成らないわ」

真剣に考え始めた。金の為に、あの男、この男と転々と寝床を変えて行くホステス稼業、
華美な衣装に身を飾って、青春を鰹節のように削って行っても、
何一つとして、将来を保証されていないホステス・・・

女の青春は花火と同じである。
パッと燃えて、瞬間、夜空に七色の花を咲かせるが、消えるのも早い。
その短い青春を享楽を求めて彷徨する漁色家に、今日も明日も投出して良いのだろうか?

アズサは下田が飢えた狼のような貪慾さで、
自分の肉体を弄ぶのにも嫌気がさし始めていた。
「ねぇ、しいさん、相談があるのよ」
乳房に顔を埋めていた下田は、双つの乳首を弄りながらぐっと下半身に力を入れた。
「何だ改まって・・・」
前にも言った通り下田はアズサを目の中に入れても痛くない程に可愛い女だと思っている。
アズサが言う事なら、どんな我が侭も聞いて遣る積りでいた。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の二十二

◇添い遂げし夜
芸者秘話11-8
日産スタジャムで行われた、神奈川大学と関東学院大学のサッカー試合は、
神奈川大学の圧勝で終わった。
その夜アズサは高橋恵美子に戻って早川豊と共に
大岡川端のラブホテルの一室に居た。

「ねぇ、あたし酔ったわ。もう動けやしないわ。介抱して下さいね」
青菜に塩と言う言葉が有るが、恵美子(アズサ)は自分でも呆れ返る程、
早川の前に出ると、小娘の様に意気地が無くなるのだ。

大学の祝勝会を途中で抜け出して来た早川は、約束の寿司屋で
寿司と酒を呑み交わして居るうちに、いつしか二人の心は一つに融和されていた。
元々余り酒に強くない早川は、酔った恵美子を抱きかかえる様にして、
確りした足取りで近くのラブホテルに入ったのである。

ホテルの部屋に入ると転がり込むようにして座布団の上に横たわった。
早川は大学の制服のまま上から恵美子の顔を覗き込んでいると、
No1のホステスと言われるだけ有って、品のある整った顔にあどけない赤い唇が
潤んで誘いかけるように見える。

「ねぇ、どうしたの、あたし苦しいわ、喉が渇いて仕様がないの、水を呑ませて・・・
 ウウン、いや!お口に移して呑ませてくれなくちゃ・・・ねぇ、口移しにして・・・」
甘えて見た。純情な青年の、世間ズレのしていない顔に当惑の色が走ったが、
それでも恵美子に言われた通り、グラスの水差しを口に持っていた。
prestige-011.jpg
「ねぇ、早くゥ・・・あたしが喉が渇いて苦しんでいても良いのゥ?」
両腕を伸ばして顔の上の男の首に腕を伸ばした。
「本当に良いんですか?そんな事をしても」
「いや!豊さんの恵美子ですもの、それ位当然じゃないの」

言われた豊は困った様にして居たが、水差しの水を口に含んでから、
恵美子の愛くるしい唇に近づけ、口移しに水を移してやった。
一度、二人の間の敷居が外されると、油紙に火が付いた様なものであった。

「嬉しいわ、豊さん・・・とっても美味しい・・・」
二人の唇が其の侭重なり合って離れなかった。初めて二人が唇を交わし合った。
恵美子は女の体を知らない豊が新鮮なものに思え。此の侭今夜は固い契りを
交わしておきたかった。体と体とで約束を交わさないと、是から豊がイギリスへ
留学して帰るまでの間、安心して待っていられない様な不安があった。

「ねぇ、豊さん、あたし苦しいわ、帯を解いて下さいな。
 もう、きゆッと締められているので息が苦しいの」
乱れた裾から赤い燃えるような湯文字(腰巻)が洩れて、若い大学生の彼には、
正視出来ないほど艶めかしかった。
「和服って随分色々な物で締め付けているんだな」と普段、滅多にお目に掛からない、
和服の装いに戸惑いながらも言われた通り帯びに手をかけた。


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小説・大岡川ラブロマンス。其の二十三

◇大団円
芸者秘話11-7
十八歳の時ホステスに転進てから七年、多くの男たちから、あの道のアレコレを
手を取って教わって来たアズサ(恵美子)にとっては、女の体を知らない童貞の
青年を有頂天にさせる事位は、乳呑児の腕を捻るより容易であった。

柔らかい掌で握った茎胴をそろそろと上下に扱いて見ると、既に充分に漲っている逸物は、
青筋を立てゝピクピクと脈打っているばかりでな、尿道口からは先走りの液体さえ流している始末。
「ねぇ、ダメよ、十分に楽しんでからでないと・・・豊さん、どう?どんな気持ち?」

生きたそらもなしに、顔を仰け反らせている早川は、只もう熱い息を吐いて、
溜息をつくばかりである。やがて恵美子は、
「ねぇ、ダメ、ダメよ、まって・・・まってゝね」
と、仰向けになっている男の腹の上に跨った。
「あぁ、恵美子さん!」

ジーンと背筋から寒気が走ると同時に、火の様な熱い膣口が感じられた。
恵美子は、そろそろと腰を使いながら、
「あぁ、いぃ、好いわ」

根元深く入って来るや否や、熱いものがはじき出された。
「あら!ダメ、ダメじゃないの!豊さん」
思わず上から男を睨んで見せると、男は羞恥で顔を真赤にしている。

「つまんないわ。ねぇ、あたしをどうしてくれるのよ」
とは言うものの、好きな男と思いを遂げた事で恵美子は幸福感で胸が一杯であった。
prestige-004.jpg
それから三年後の春・・・
横浜・大岡川畔に有る料亭“早川”では朝から上へ下への大騒ぎであった。
イギリスへ留学していた女将早川恵美子の夫早川豊が成田空港へ帰朝すると言うので、
その出迎えの時刻が近づいて来ているからであった。
仲居頭の八重が、
「やっとこれで好いわ、もう、駅に着いた頃ね、孝君、駅に車廻してあるんでしょうね」

最寄り駅の京急南太田駅で待つ板前見習いの孝の目の前に、改札口を抜けた
恵美子と二歳に成る男の子を抱いた豊が満面に笑みを湛えて現れた。

「お帰りなさいませ」
玄関脇にズラッと並んだ中居達に迎えられて、先に車から降り立ったのは、
嘗て横浜No1と謳われたホステス時代のアズサ事、早川恵美子夫人である。
続いて降りたのは将来を嘱望されている大手自動車メーカー日○自動車の
若手技術者で恵美子の夫、早川豊その人である。

豊の腕に抱かれている二歳になる、男の子は三年前のあの日に、
初性交で見事に身篭った一粒種である。
「ただいま、留守中には色々とありがとう」
豊は、従業員の一人一人に挨拶の握手を交わして行った。


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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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