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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 再編集。古希を迎えた男の最後の女。其の六
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再編集。古希を迎えた男の最後の女。其の六

~裏稼業の始め~
扇山(大月市の扇山)
私が二十歳に成った時(昭和三十八年)東京オリンピックや東海道新幹線開業を翌年に控え、
電気業界は好景気に沸いていた。私の勤める電機部品メーカーも親会社からの要請で
工場を横浜市内に新設し、そしてその工場長に若干二十歳の私が指名されたのだ。

そして六年後、その実績を買われ、会社は山梨県大月市に別法人の子会社を作り、
其処の取締役工場長に選任された。
私は新婚間もない妻と生まれたばかりの長男を伴って大月市の工場に赴任した。

最初の一年は地元に解け込む為に色々と苦労した。
地元で募集した従業員の部落意識が強く、幾つかの派閥見たいのが出来て、
其のボスの様な人物に何事も通さなければ仕事になら無いと言う状況で
職制よりも派閥のボスの言う事の方がまかり通るのであった。

若い私にはその事が一番厄介な問題で幾度と無くそう言うボス連中の反発を買い、
部落毎のサボタージュを受け、其の度に一升ビンを携えて説得に歩いたものである。

又、国政選挙や県議会・市議会の選挙とも成ると是又大変であった。
其れまで名前も知らず、会った事も無いような名士達の来訪を受け、
選挙事務所に顔を出す様に勧められて、酒や食事を振る舞われ、
時に現金を掴まされたりして、票の取り纏めを依頼されるのである。

都会(横浜)に居た時は仕事の事だけを考えて居れば良かった物を、
田舎(山梨)に来てからは、仕事以外の雑用に随分と悩まされた。
二年目に入る頃には“郷に入れば郷に従え”で大分慣れてきた。、
妻も地元の“おかあちゃん達”の中に溶け込んで呉れた。

山梨時代の私は順調に業績を積み重ねて行ったが、昭和五十三年に義父(母の再婚相手)
が病に倒れたのを機に、9年間勤めた山梨工場を退き、横浜に戻る事にした。
引越し当日は工場の人達が総出で見送って呉れた。
日頃反目していた、ボス達も涙目になって、「こうばちょう、元気でなぁ」と言い、
握った手を中々離そうとはしなかった。皆、根は善良な好い人達ばかりだった。

横浜に帰り、
電気制御と工事を専門にする会社を興し自宅の近くに、事務所を構えた。


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出会った女2-1
そして三十五年があっと言う間に過ぎ去り今年私は七十一歳を迎えた。
十年前には息子に会社を任せ、
私は裏稼業の「経営相談(実質は金貸し業)」に専念した。

此処で私が会社を息子に任せてまで、貸金業の真似事に打ち込んだかを、
説明して置く。克ってのバブル期には過剰流動性資金の受け皿として、
サラリーマン金融(サラ金」や、消費者金融が多くなっていった。
しかし一旦バブルが弾けると、そう言った金融業者も銀行も貸し渋りや、
貸し剥がし等で中小零細企業は資金の調達先が閉ざされて、
倒産等に追い込まれることが多く成った。

前に述べた女性客との肉体関係、うんぬんを読まれただけでは私の事を金の力を借りた
単なる色事師としか想われないだろうが。実はそれだけではない。
銀行や町金融からの融資を受けられず其の日の金にも困ってる人を何とかして遣りたい。
遠い昔の母を思い出しあの時何もしてやれなかった事を今に成って、
母と同じ様な境遇の人達の力に成りたいと言う気持が根底にあった。

其れまでの蓄えと地元信用金庫からの融資で、経営相談と言う名目で
銀行から見放された零細企業や個人に、 銀行よりは少し高い金利で貸し出した。

徹底的に話を聞いてやり、決して見放さず何らかの解決策を考え、
金の必要な人には金を貸し、仕事が無い人には仕事を斡旋し、
家庭内に問題があれば家族を交えて解決策を見出すように仲立ちし、
夫婦仲がギクシャクしている様な経営者の細君の性欲処理も引き受けた。

私が裏稼業の客に初めて手を出したのは、平成十三年の夏の頃だったと思う。
町工場を経営していた男の妻が、借金を申し込んできたのだ。
女の名は山口美里(仮名)と言い47歳だと言う。

彼女の息子がバイクで交通事故を起こしたので、示談金が必要に成ったと言う。
亭主の経営する工場は可なり金策に窮していて示談金に廻せるような金の
目途が立たないと言うだ。(金額は幾ら必要なのか)と聞くと100万程だと言う。
(100万とは大変な金額だ、保険には入って居なかったのか)と聞くと。
「自賠責以外の保険には入って居ない」と言う。

美里は、
「何処かスナックを紹介してくれませんか。この月末までに1/3の30万円を
 支払わなくてはならないので、スナックを紹介して貰って、前借金で支払いに
当てたい」と言うのである。

昼間に知り合いのスナックの開いて居る店も無く、ホステスが欲しいと言う
話も聞いて居ないので、その件は話に乗って上げられないと断ると、
彼女は泣き出しそうな顔をして、「何処かでお金を貸して呉れる処は無いか」
と尋ねる。でも高利貸しでは後が大変だからと私は止めた。
  1. 私の性遍歴
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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