我が生涯最高の女「熱海芸者・七吉」。其の三
◇初めての同衾◇
聡子に初めて会ったのは、勿論この熱海であった。
私が、大学を出て、就職した時、叔父と一緒に、何かの用で熱海に行った。
当時、叔父は小田原で料亭を営んでいたが、戦時中私の一家に、
疎開先を紹介したくらい、熱海に縁が深く、顔も広いのであった。
用事が済むと、馴染みらしい旅館に入った。
私達がその一室に落ち着くと、中年の色っぽい女が入ってきた。
「いらっしゃい」
叔父になれなれしい挨拶をした。
叔父は、栄子さんといって、ここで芸者の置屋を経営している人だ、と紹介し、
私を可愛がっている甥だと彼女に紹介した。
「叔父さんには昔から大変お世話になっていまして」
ぎごちない言葉で女は挨拶した。私は、この女は叔父とデキていると直感した。
叔父にとっては彼女に会うのも熱海に来た目的の一つだったのだろうと私は思った。
叔母の手前、私と一緒に来たのだろう。叔父は、
「今夜はお前も存分に遊んでゆけ、お前の就職祝いだ」
粋らしいことを言った。
「栄子さん、甥に似つかわしい、若い芸子は居ないかね」
「そうね、丁度好いのが居るわ。この間お披露目したばかりなのが。
おとなしくて綺麗な子よ。家に来た七番目の子だから、
七吉と言う名前にしたの、いいなまえでしょ」
と彼女は言った。
そして夕飯の膳が出た頃、「こんばんわ」と遣って来たのが聡子だった。
栄子の言うとおり、無口で静かだった。酒を飲み、食事が終わると、
「どうだい、お前たち若い者同士で、ダンスホールにでも行ってこいよ。
お前たちの部屋は取ってあるからな、
帰ったら俺に気がね無くそっちにいって、自由にやれよ」
叔父は全て手配してくれたのだ。
「いいか、今夜の事は全て叔母さんには内緒だぜ」
私と七吉が出かけるとき、背後から叔父が言った。
二人は熱海の町をブラブラ歩いて、海岸近くにあるホールに行った。
しかしそこは狭くて、混んでいたので、暫くして帰った。
宿の部屋に入ったはいいが、私は女郎屋に一、二度行ったきりで
殆ど童貞に近かった。芸者と泊まるなど全く予期しなかったから、
どうしていいか、まごまごするばかりであった。
七吉こと聡子も、芸者になったばかり、まだ客扱いに慣れているはずはない。
ましてや泊まることには。それでも何とか、かんとか、枕を並べて布団に入った。
すぐキスだけはしたものの、
「どういうわけで芸者になったの」
と私が言ったのをきっかけに、延々と聡子の話を聞く羽目になった。
彼女は此処に至るまでの、半生記を話した。
芸者になる決心をして以来誰にも打ち明けられなかった胸のうちを、
同年輩で気の合いそうな私にめぐり会って、自然に過去を語っていると言う事が
判ってきてきたので、彼女の話を素直に聞いた。
そこで聞いた彼女の過去は此処では話さないでおくが、話が終わった時は、
欄間窓の外は、もう白々として、夜が明けてきた。
「いけない、夜が明けて来た。さー早く」
女はその身を寄せてきて、私の口にキスをした。
しかし一睡もしてない私は無性に眠かった。
「一眠りしてからにしょう」
と私は言った。目がさめたのは七時過ぎだった。
私は眠らないで居たらしい七吉を抱きしめた時、電話が鳴った。
早起きの叔父からだった。
「どうだった、昨夜は・・・。お茶が入ってるぞ。早く来い、朝飯だ」
聡子は済まなそうな顔で、何か言おうとしたが、其れを遮って、
「いいんだよ、気にしないで、また別の日に来て呼ぶからさ」
と言って、私は起き上がった。体は触れなかったが、一夜の同衾で、
私は七吉が好きになった。
必ずまた逢いに来ようと、叔父の部屋に二人で向かいながら心に誓った。
聡子に初めて会ったのは、勿論この熱海であった。
私が、大学を出て、就職した時、叔父と一緒に、何かの用で熱海に行った。
当時、叔父は小田原で料亭を営んでいたが、戦時中私の一家に、
疎開先を紹介したくらい、熱海に縁が深く、顔も広いのであった。
用事が済むと、馴染みらしい旅館に入った。
私達がその一室に落ち着くと、中年の色っぽい女が入ってきた。
「いらっしゃい」
叔父になれなれしい挨拶をした。
叔父は、栄子さんといって、ここで芸者の置屋を経営している人だ、と紹介し、
私を可愛がっている甥だと彼女に紹介した。
「叔父さんには昔から大変お世話になっていまして」
ぎごちない言葉で女は挨拶した。私は、この女は叔父とデキていると直感した。
叔父にとっては彼女に会うのも熱海に来た目的の一つだったのだろうと私は思った。
叔母の手前、私と一緒に来たのだろう。叔父は、
「今夜はお前も存分に遊んでゆけ、お前の就職祝いだ」
粋らしいことを言った。
「栄子さん、甥に似つかわしい、若い芸子は居ないかね」
「そうね、丁度好いのが居るわ。この間お披露目したばかりなのが。
おとなしくて綺麗な子よ。家に来た七番目の子だから、
七吉と言う名前にしたの、いいなまえでしょ」
と彼女は言った。
そして夕飯の膳が出た頃、「こんばんわ」と遣って来たのが聡子だった。
栄子の言うとおり、無口で静かだった。酒を飲み、食事が終わると、
「どうだい、お前たち若い者同士で、ダンスホールにでも行ってこいよ。
お前たちの部屋は取ってあるからな、
帰ったら俺に気がね無くそっちにいって、自由にやれよ」
叔父は全て手配してくれたのだ。
「いいか、今夜の事は全て叔母さんには内緒だぜ」
私と七吉が出かけるとき、背後から叔父が言った。
二人は熱海の町をブラブラ歩いて、海岸近くにあるホールに行った。
しかしそこは狭くて、混んでいたので、暫くして帰った。
宿の部屋に入ったはいいが、私は女郎屋に一、二度行ったきりで
殆ど童貞に近かった。芸者と泊まるなど全く予期しなかったから、
どうしていいか、まごまごするばかりであった。
七吉こと聡子も、芸者になったばかり、まだ客扱いに慣れているはずはない。
ましてや泊まることには。それでも何とか、かんとか、枕を並べて布団に入った。
すぐキスだけはしたものの、
「どういうわけで芸者になったの」
と私が言ったのをきっかけに、延々と聡子の話を聞く羽目になった。
彼女は此処に至るまでの、半生記を話した。
芸者になる決心をして以来誰にも打ち明けられなかった胸のうちを、
同年輩で気の合いそうな私にめぐり会って、自然に過去を語っていると言う事が
判ってきてきたので、彼女の話を素直に聞いた。
そこで聞いた彼女の過去は此処では話さないでおくが、話が終わった時は、
欄間窓の外は、もう白々として、夜が明けてきた。
「いけない、夜が明けて来た。さー早く」
女はその身を寄せてきて、私の口にキスをした。
しかし一睡もしてない私は無性に眠かった。
「一眠りしてからにしょう」
と私は言った。目がさめたのは七時過ぎだった。
私は眠らないで居たらしい七吉を抱きしめた時、電話が鳴った。
早起きの叔父からだった。
「どうだった、昨夜は・・・。お茶が入ってるぞ。早く来い、朝飯だ」
聡子は済まなそうな顔で、何か言おうとしたが、其れを遮って、
「いいんだよ、気にしないで、また別の日に来て呼ぶからさ」
と言って、私は起き上がった。体は触れなかったが、一夜の同衾で、
私は七吉が好きになった。
必ずまた逢いに来ようと、叔父の部屋に二人で向かいながら心に誓った。
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ご挨拶
Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。
生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。
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