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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 女子大常勤講師の役得。其の一
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女子大常勤講師の役得。其の一

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◇学生数の減少◇
私学の非常勤講師といえば失業者とたいして変わらないと、誰かが言っていましたが、
自分が奉職してその真実なるのを痛感します。勿論そうでない私大もあるでしょうが、
私の勤めている京都の某女子大の場合、全く其の通りでした。しかし故郷の親に対しては、
無職浪人と報告するより講師の肩書きを伝えてやるほうが、安心します。

また、名刺の肩書きには「常勤」とも「非常勤」とも書いていないので、外部の人に対しては、
同格の顔をしていられますので肩身が広い思いがします。
それともう一つの利点は、部活の指導がしやすくなった事でしょう。

肩書きがなければただのコーチ。下手をすると「スポーッ好きのオッサン」程度にしか見られません。
それが、一旦講師の肩書きが付くと先生扱いされ、若い女性の汗の臭いの中に大きな顔を
して居られるのですから、其の時だけは至福を感じます。

それがどんな風の吹き回しか、去年の春の人事異動で常勤講師に昇格任命されてしまいました。
それも、私の都合も聞かずに一方的な人事発令でした。
私の場合、都合の悪い事はありませんでしたが、人によっては兼業講師の方も居られるのですから、
前もって相談すのがこれまでの仕来りだったのです。

それなのに私の場合は一方的に、
「講師にしてやるから、有難く受けろ」と言わんばかりの発令でした。
少しプライドを傷つけられましたが、ここで小難しい事を言って話をぶち壊してもつまらないので、
恭しくお受けしました。これまで特別の功績のなかった私を、なぜ特進させたのか。
間もなくその理由がわかりました。

私立大学の存続をかけたサバイバル・ゲームに勝ち残るためだったのです。
これからは出生率の低下に伴い、入学する学生が減る事は目に見えています。
それを如何にしのいでいくか、各大学は策を練っています。

我が大学も例外ではありません。しかし、その作戦を推し進める頭脳戦士は多数いるのですが、
体力戦士が少ないのです。其の為に、若い男性を数多く講師に昇格させたのです。
講義するより走り使いの出来る馬力のある者が必要だったのでした。


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今までの失業者に近い暮らしから、急に活気がある生活に変わってきました。
「忙しい、忙しい」とイキがりながら動き廻ります。
常勤になったのですから、今までのパート並自給から月給へと、報酬も増えました。
「以後、仕送り不用」と親に知らせてやると、喜んだ母親は、
「次は早くお嫁さんを貰って、孫の顔を見せておくれ」
と、とんでもない要求をしてきました。所帯を持てる程の月給は貰えないのに。

ところで、あろうことか、とうとう入試委員の一人に任命されました。委員と言っても、
入試問題を作成する高等委員ではなく、使い走り専門でした。
入試要項・大学案内を持って地方高校巡りをします。
そして、一人でも多く受験生を廻してくれるように頼む日々が続きました。

その合間に時々講義にも出て、先生の気分も味わわせて貰います。
しかし主たる仕事が地方巡りの馬力提供係であることには、変わりありません。
そうした毎日を送り一ヶ月ほど過ぎた頃、本学の方針に誤りのある事に気付きました。

そして、その気付いた事を箇条書きにまとめて、委員会の時に末席から発言しました。
正に怖い者知らずの猪突だったのですが、たまたま出席していた理事の一人が、
私の言った事に耳を傾けてくれました。無気力な老人の集まりであった委員会に、
無鉄砲な阿呆が一石を投じたから目だったのでしょうが。

私の述べた要旨とは、
一、地方巡りをしても進学校を狙うな。今まで有名進学校から本学に一人でも受験生が
  来た事実があったか。むしろ進学に縁の無いと思われていた女子高こそが狙い目である。
二、本学の宣伝よりも、観光都市である京都を売り込め、地方の人の京都への憧れは
  想像以上のものがある。そこにつけ込め。
三、どうしても本学の宣伝をしたいのなら、建学の精神や、教授陣の充実などを前面に
  押し出さずに、食堂やクラブ等の設備のセンスの良さを売り込め。
そして、その理由を補足しました。
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初め、地方巡りの目標を進学校に置いていたのです。教育に熱心な人を口説けば効果が
あると錯覚していたのです。考えても御覧なさい、そんな進学校は一流大学を狙っていて、
本学のような三流大学にはハナから目標を置いていないのです。
それに早く気付くべきだったのです。それよりも、花嫁学校程度にしか思っていない女子学生を、
「四年間、京都で青春を過ごしませんか」と誘った方が効果があるのです。

観光都市「京都」を売り込めば如何に効果が有るかは、若い人向けの女性誌を見れば
明らかだと、実際にそれらの雑誌を取り出して展示すると、理事は「なるほど」と頷いてくれました。
老委員の中にはそんな雑誌の存在すら知らない人もいますので、非常に話しにくい思いました。

如何に老委員がぬるま湯に浸かっていたか。其の反動で、必要以上に私が買い被られました。
驚いた事に、特別推進委員会の常任委員に任命されたではありませんか。
「若輩者をいきなり幹部待遇にするとは、
 本学の人事の融和を破壊し禅譲の美徳を毒するものである」
とか何とか、訳の判らない発言をして一丁噛みするアホ教授もいましたが、
理事の一喝で霧散させられました。
「一昨年、昨年と、二年続きの受験生減を何と心得ているか?
 危機意識の不足はなはだしいものがある」
と論破されると、発言した老人は口をつぐみ石地蔵に化けました。

直ちに理事命令が私のところへ来ました。
「至急、策を作って提出せよ」
とのこと。其の日から案の作成に掛かり、三日目に提出しました。
今までのような総花的なカタログにせずに、要点を絞ったのです。
要点は言わずと知れた「京都で青春」でした。

京都らしい祇園祭と乙女の憧れを同化させる策に出たのです。
彼女らをして古都のムードに溶け込ませたのです。
すなわち、祇園会と彼女らの浴衣姿とを合体させることに思い至ったのでした。

京都らしい着物姿、それには西陣、友禅等では高価につき過ぎます。
其の点、近年羽を伸ばしてきた浴衣なら手頃の価です。
少し手を伸ばせば斬新な物が手に入ります。女の子が少し背伸びすれば、
誰でも仲間入り出来そうな錯覚が持てます。浴衣をバスロープとしてでなく、
純着物の一種へ格上げしてくれたメーカーの努力に感謝しつつ、其の線で押しました。
  1. 教師の告白
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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