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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 秋保温泉での一夜。其の一
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秋保温泉での一夜。其の一

◇温泉宿の篤いもてなし◇
秋保温泉
近頃の日本では「技術立国」から「観光立国」へのシフトが進んでいるようで、
観光旅行と言えば各地の名産品やB級グルメとか言う地方料理が人気で、
テレビ等ではどのチャンネルでも温泉巡りと、食べ歩きの番組が溢れている。

裸の女優や若いタレントがバスタオルを巻いて岩風呂や野天風呂に這入る風景、
座敷へもどって豪華な料理を一口食べるなり、
「うん、うま~ァい!」
当方としては味も分からず、匂いも知る事が出来ないのに毎度同じ画面を
見せられるのにはいささかうんざりの感もある。演出やカメラにもっと工夫を
してもらいたいものだ。

それにもう一つ、現今の旅館は泊り客の部屋に料理を運んで来る事は、
(特別な高級旅館を除いて)まず無いだろう。
昔は宴会場以外にはなかった食堂と言うものが出来ていて、
一人旅の者からファミリーまで定められた時間内にゾロゾロ連なって食べに行く。
点在するテーブルの上には『○○様御席』のプレート、
すでに半分冷えた料理が並んでいるのが当たり前になってしまった。
これではせっかく料理人が腕を振るった味が楽しめない。

昨今の少子化で料理人や仲居の成り手が少ないうえに、
コストダウン、経営合理化がそうさせたのだろうが、なんとも味気ない話である。

私は若い頃から全国各地を飛び回って仕事をしていた。
東北新幹線も開通していない昭和四十九年の秋の事である。

青森から特急で東京へ帰る途中、集中豪雨の為に列車が仙台駅で
ぴたっと止まってしまった。どこやらの河川が氾濫して復旧の見込みはつかないと言う。
時刻は夕刻、このまま車中で夜を明かすのは耐えられない。
(そうだ、どこか温泉にでも行って息抜きしょう)
鉄道が止まってしまったのだから仕方が無い、
家に帰って妻にも堂々と言い訳が出来るのだ。

駅の案内所で聞くとバスで一時間くらいの所に“秋保温泉”が有ると判った。
秋保温泉と言えば道後温泉・有馬温泉と並んで天下の三大温泉の一つと
聞いていたから、これは行かざるを得まいと思った。
案内所で温泉宿を紹介してもらい、降りしきる雨の中をバスに乗った。

九時までに来てもらえば食事の用意をしてくれるという。
この分ならバスの中でゆっくりしていても八時半頃には旅館に入れそうだった。


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秋保温泉02
篠突くような雨だから乗客の数は少ない。もはや車窓から見える外の景色は暗く、
窓を滴り落ちる雨滴をぼんやりと眺めているだけで、
どこを走っているのか判らないうちにバスは終点の温泉町に着いた。

雨の中を番頭さんが傘を持って出迎えて呉れている。
たった一人の旅客の為に・・・である。お陰でたいして濡れもせず旅館に直行できた。
この辺りの処も人情紙より薄くなった現在とは違って誠に有り難かった。

部屋に通ると着替えを手伝って呉れながら、
「先にお風呂にしますか、それとも食事になさいますか?」
の問いも、我が家の妻が言う紋切り型の台詞と雰囲気が全く違って、
「どちらでもお客さんの好きなように、食事の終わりが遅くなっても一向に
 かまいませんよ」と言う親切心が現れている。

もっともそれは、若い仲居さんがすらりとした可愛い別嬪さんだったから
プラス・アルファの気分が有ってのことかも知れない・・・。

昼食を駅弁とお茶で済ませただけだったから腹も減っている。
それに私一人の為に旅館に余計な迷惑をかけたくない。
「先に食事を頂きますよ。ビールを一本と後でお銚子を二本ばかり持って来て下さい」
程なく冷えたビールがお盆に乗って運び込まれた。

スッポン!
外の雨音を打ち消すかのような景気のいい音をたててビールの栓が抜かれる。
「お天気がよければ綺麗な虫の音が楽しめますのに今夜は生憎の大雨で・・・
夕刻から川の水位が上がり警報のサイレンが鳴りばなしなんですよ」
受けるコップにほどよくビールの泡を立てながら係りの仲居さんがいう。
「いやあ、遅く来てごめんね、こうしてビールを飲めるだけ幸せってもんだ。
 お姐さんも一杯どう?」
温泉旅行02
飲み干したコップを差し出すと彼女は顔の先で手を振って、
「あたしはだめ、お酒飲めないんです」
やんわりと断られた。が、これは旅館が堅い証拠だろう。
もしここで一緒に飲むようならば体を売る酌婦かも知れない。
「それは残念、では一人で楽しもう・・・」
仲居さんは二杯目まで酌をしてくれ、姿を消した。

黙々とビールを飲むうちに、食卓の上には山菜料理にエビの天麩羅、刺し身、
お決まりと言えば其れまでだが食べ切れないほどのご馳走が並べられ、
お銚子も届いている。

時計は九時を回り、旅館の中はひっそりしていて雨音だけが聞こえている。
ほどよい燗酒を傾けながらふと気付いたのは、日本全国どんな山の中の宿屋へ
行っても料理の一品に必ず生物である刺し身が付く不思議さだった。
しかもそれがマグロや鯛の海魚、豪華なところでは伊勢海老とかアワビの類まで
出す旅館もある。

それほどかように日本人は刺し身や生ものが好きと言う事だろうが、
山の中で川魚の塩焼きなら話は別として、海から遠く離れた旅館で生魚の
刺し身は如何なものだろうか。

ブツクサ呟きながら二本目のお銚子が底をつく頃は大方の料理を食べつくし、
お腹は満腹、酔いが全身を巡っていて陶然たる気分になっていた。
そこへ先程の仲居さんが小さなお櫃と吸い物をもって現れた。

「やあ、もうご飯は結構。料理だけでお腹が一杯だ」
「それじゃ、お汁だけでも召し上がれ」
「いや、それも遠慮させてもらう。此の侭横になりたいが、
 秋保に来たのだから温泉だけは這入りたいな」
「せっかくいらしたんですものね、大きな岩風呂でいいお湯なんですよ。
 お床を隣の部屋に用意しますから一休みして這入られたらいいですわ」
私は、もう一枚座布団を借りて枕代わりにし、その場でごろりと横になった。


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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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