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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 秋保温泉での一夜。其の二
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秋保温泉での一夜。其の二

◇男湯の中の女◇
温泉旅行03
ふと気づくと寝ている体の上に夏布団が掛かっている。
さてはさっきの仲居さんが気を利かせて呉れたのだろうと起き上がると、
お膳の上は綺麗さっぱり片付けられていて、
お盆の上に土瓶と湯飲み茶碗が寂しげに置いてあった。

土瓶に手をやると、もう大分時間が経っているらしく湯が生ぬるい。
それでも生酔いの目覚めには甘露である。
時計を見ると十一時を大分過ぎている。

こんな半端な時間に目が覚めると一人旅ほど侘しいものはない。
人と言う字は二つの棒が支えあって人と言う字に成ると言うが、
孤独の人間には支えが無いのだ。

なんともやるせない。眠ろうと思っても目が冴えてしまって、雨の音だけが耳に付く。
帳場に電話して酒を頼むには刻を逸している。
仕方ない、風呂でも浴びてくるか・・・。

「大浴場は階段を降りて左の廊下を行くと、直ぐ左手に有りますから」
と、先程の仲居さんに聞いている。
廊下を出て、赤い絨毯を引いた広い階段を降りたが、さすがに真夜中。
常夜灯が点いているから歩くのには差し支えはないが、人っ子ひとり出会わない。

目的の廊下を行くと、
紺地に『ゆ』と染め抜いた大きな暖簾が掛かっていたので直ぐ判った。
『ゆ』の字を中にして右に『男』左に『女』と書かれている。

昔は混浴で脱衣場も一緒だったと言うが、現在は法令で禁じられているので
男女が自由に入り乱れて入浴すると言う処は無いようだ。
ただ、温泉によっては入り口が別々でも湯船の奥の方で繋がっている処もある。

勿論私の泊まった温泉宿は男女の別は堅く守られ、
一緒に這入れるのは家族風呂だけのようだった。

曇りガラスに『男』と書かれた引き戸を開けると、広い脱衣場に人影はなく、
隅の方に衣類を入れた籠が二つ置かれていた。

さすがに秋保温泉、こんな時刻にも入浴している客がいるのだ。
わたしも積まれた籠の一つを取って、反対側の隅で着衣を脱ごうとした時だった。
浴場との境の戸が開いて先客の一人が出てきた、其の姿を見て吃驚した。


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aaa50.jpg
なんと若年増の女性なのである。
髪をタオルで巻き上げて、もう一枚のタオルで黒い繁みを隠しているが、
隆起した大きな胸、艶々した湯上りの肌は隠しようがない。

一瞬、私は入り口を間違えたかと思い、息を詰まらせた。
が、彼女は艶然と笑ってこう言った。
「あら、良いんですのよ。ここは殿方のお風呂なんですから・・・」

向こうむきにしゃがみこみ、肩先から胸元を湯上りタオルでひとなですると、
単衣を身にまといながら立ち上がり、素早く腰巻をくるくる巻いて、
「どうぞ、ごゆっくり・・・」

意味ありげな微笑を浮かべ、化粧品の入った小桶を左に抱え、
もう一方の手で頭のタオルを外して襟筋を拭きながら出て行ってしまった。
どう見ても素人とは思えない、宿の仲居にしては垢抜けている。
もしかしたら土地の芸者が客と入浴していたのかもしれない。

(畜生!うまいことやってたんだな?)
私は思わず口元が弛んだ。可笑しくもありなんとも気の毒でもある。
折角二人で楽しんでいたところへ、入口で音がして誰か這入ってきた気配に、
女が慌てて出て来たのだろう。

(惜しいことしたな、もう少し早く来れば女の裸を楽しめたのに・・・)
心中複雑な思いにニヤニヤしながら大浴場の戸を開けた。
中はもうもうたる湯気が立ち籠めている。

(イチャイチャしていた男はどんな奴だろう、そいつの顔を見てみたい)
半ばやっかみの気持である。どうやら男はカランの前にいるようだ。

湯船の奥に自然の岩が天井まで埋め込まれている大浴場から湯を汲み出し、
掛け湯で洗いながら横目で件の男を観察すると、
(やややっ・・・)
男と思っていた人影は女らしいのだ。
しかも彼女は片膝立てた恰好で何やら洗濯をしている。
私は慌てて浴槽に飛び込んだ。
母子交尾028
ヒゲアザラシのタマちゃんよろしく湯から顔だけ出して目を凝らすと、
湯気の中の人影は確かに体型が男ではない。全体が小ぶりで丸っこい。

床のタイルの上で何を洗っているのか、胸が忙しく前後に動いている。
其の腕が揺れ動くたびに垣間見える胸の膨らみが女を感じさせる。
私は胸をときめかせて観察した。

視界は悪いが髪形は女だし、第一男が肩膝立てて洗濯する筈が無い。
(さては、宿の仲居が二人で男湯に這入っていたのか?)
何故?と疑問を持ったが其の時点では判らなかった。

どうやら女の洗濯は終わったようである。
浴槽に這入ろうかどうしようか、思案しながら周囲を片付けている。
私は見て見ぬふりをしながら期待に胸を膨らませた。

やがて女は片手で前を覆い、もう一方の手でさりげなく胸を隠し立ち上がってきた。
「ごめんなさい・・・」
広い浴槽だから、彼女は怖じける気配は少しも見せず、下から見上げている
私の視線にかまわず左横二メートルほどの処にするりと這入ってしまった。

大体温泉の浴槽というのは床のタイルと同じ高さである。
ヴァギナを拝見しようとした期待は見事に外れてしまったが、
直ぐ目の前に白い裸身が透き通った湯の中でゆらゆら揺れているのだ。

腕で隠すようにしているが小柄の体にしては胸が大きく盛り上がって、
いまどきの言葉を借りれば巨乳である。
くびれた腰、折り曲げた白い足の先まで透いて見えるのが悩ましい。

浴槽の中は二人以外誰もいない。
酔いの残っている私はつい大胆な言葉を口にした。
「こっちにおいでよ」
「だめよう・・・」
彼女はチラッと私を見て「ふふふ」と肩をすぼめて笑ったようだった。
嫌がってない。私は直感した。
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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