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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 心から愛した女はただ一人。其の一
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心から愛した女はただ一人。其の一

横浜で最初に出来たホストクラブが『ナイト倶楽部平安』(仮名)であるならば、
最初のナンバーワンホストになった男が私・・・と言うわけで、
何時頃からか[カゲが似合う男]と呼ばれていた。
要するに暗がりでしか生きて行けない男と言う事なのだろうか。

ホストとは「男」が売り物と言うが、特定の女のものと判ると値打ちが下がる。
しかし私と14歳年下の妻、芳江とは出会ってから直ぐに同棲から結婚へと進み、
今では性生活は全くないがそれでも別れられずに暮らして居る。

◇妻の男性遍歴
momiji555.jpg
妻がある男を連れて来た。グレーのスーツに、ネクタイをキッチリとしめた30代半ばの、
堅気のサラリーマンらしい男だ。もちろん、私とは初対面である。

私が大のベイスターズファンで、男も横浜ファンだと言うので、仲良くナイターを観戦、
CMの間にトイレに立って戻ると、妻と男はキスをしていた。今度は男がトイレタイム。
「今、付き合っている男なのか?」
「そうよ」
「どこまでの関係なんだ?」
「あなたに、そんなこと言う資格はないわ」

ヤボなことを聞いたもんだ、50女の不倫がキスだけのはずがない。
「つまらん男にだけは引っかかるなよ」
そう言い残して、私は妻と男を残して家を出た。

私は電車で出勤する。最寄駅から日の出町駅までは10分たらず。
店は駅から歩いて5、6分の福富町にある。
まがりなりにも、私はホストクラブのオーナーなのだ。

(いつごろから、オレたち夫婦はこうなったのか・・・)
夕刊紙の活字を目で追いながら、ふとそんなことを思った。
と言っても夫婦仲が悪い訳ではない。結婚して40年近い夫婦にしては、
可もなし不可もなしといったところだろう。

喧嘩もするが、たまの休みには二人でドライブにも出掛ける事も有る。
妻は家事に手抜きはしない。仕事柄不規則になりがちな私の事を考えて、
特に食事(栄養管理)には気を配ってくれる。
私も妻に不安を感じさせないだけのモノ(金)は入れている。

普通の夫婦と違うところは、我が家にはセックスがないと言う事だ。
普通の夫婦は、原則として家庭内で欲望を満たしているだろうが、
私たちの場合は、原則として家庭外で解消している。私も妻もである。

ノーマルでないのはわかっている。それでよく夫婦でいられると思うだろうが、
それが当たり前になってしまえば、そんなにヘンでも不都合なことでもない。

こんなことになったのは、私の職業に原因がある。
私は今は現役を退いたが、60歳まではホストだった。
職業柄、女関係は絶えない。常に複数の女がいた。
それが商売なのだから、仕方のないことで、妻もそれを十分承知で結婚したはずだ。


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ホストクラブ
妻は私の同郷(会津若松)の女だ。たまたま横浜を歩いていて、バッタリ出会った。
そして妻が私に一目惚れした。
夜の商売であることは話したが、ホストをしているとは言わなかった。
両親にも隠していたし、たぶんバーテンかなんかだと話したような気がする。

19歳の妻と体の関係ができ、私は適当な時期に別れるつもりでいたが、
妻の一途さにほだされる形で同棲するようになり、その延長で結婚した。
丁度、上村一夫のマンガ「同棲時代」が流行しており、南こうせつとかぐや姫の
「神田川」がヒットしたころで、多くの若者たちが同棲に憧れ、
流行を追いかけるような軽薄さで、単純な同棲へと走った時代だった。

同棲した時は、妻は私の職業がホストであることを知って居た。
ホストという職業も、当時はフウゾクの最先端を行くもので、
世間一般の評価はともかくとして、それなりにカッコいいと思われ、
まだ世間が判って居ない女の子たちの憧れのマトでもあった。

自分で言うのもおかしいが、小、中、高校と何時も女の子たちにはもてた。
長い手足に、ハーフと見紛う顔立ちで、街を歩いていても、よく人が振り返った。
いつごろからか、私はホストの仕事は天職ではないかと思うようになっていた。

そしてこの業界で私は(カゲが似合う男)と言われる様になった。
カゲは蔭でもあり影でもある。要するに暗がりが似合う男、皮肉な見方をすれば、
暗がりでしか生きていけない男ということなのである。

これは確かに言える。夜、生きている男は昼間は意外とパッとしないものだ。
これがあのカッコいい男かと思われるぐらいである。
それがタキシードに身を包み、蝶ネクタイで胸元をピシっと決めて、
薄暗いフロアーに立つと、見違えるようなイイ男になる。
昼と夜の顔が異なるのは女だけでなく、男も同じなのである。

私のカッコ良さに憧れていたころの妻は、私は職業が苦にならなかったようだ。
その当時は私は妻と外出しても、肩を並べて歩くことを許さなかった。
いつも2、3歩先か後ろを歩かせた。誰に見られるか判らないからである。
ホストは(男)が売り物、特定の女のモノと判ると(男)の値打ちが下がるからである。
美神さゆり01a
職業柄、たいがいは朝帰り。これは若いと言ってもやはり疲れる。
疲れていると妙に勃起してくる。勃起を鎮める為に妻を抱く。
そんな時、私に脂粉の匂いがすると、妻は体を硬くした。

拒む事は無かったが、それに近いものを、感じることが何度かあった。
そんなことが続いているうちに、
私たちのセックスは、いつしかギグシャクしたものになってしまった。
とはいえ妻の肉体は、そんな事とは無関係に成熟の度合いを増していった。

女盛りを持て余すようになると、妻は欲望のはけ口を私以外の男に求めるようになった。
妻の不倫は、普通の家庭ではあってはならない事、許されない事である。
しかし愛情とセックスは別と割り切ることで成り立っている。
ホストの感覚からいえば(それがどうした)と言う程度のものなのである。

妻の肉体の一部に、ほかの男が触れたからといって、目くじらたてる事では
ないじゃないかという感覚は、普通の人には理解出来ないかもしれない。
妻以外の女とセックスすることが、職業の一部になっているホストに、妻の不倫を、
とやかく非難できる資格はないと思って居るホストが大多数ではないが、
我々にとってセックスは、一時の快楽の為の物で、それによって愛情を高めたり、
子孫を残そうと言うような崇高なものではないのである。

妻の最初の不倫に気付いたときは、おやっと思った。
ショックと言うほどの事では無かったが、ある種の驚きはあった。
体を絡ませた時、妻が私の耳たぶを噛んだのである。
そして執拗に舌の先を、耳の穴に押し込んできた。

その行為そのものは、非常に心地いいものだが、私は妻とのセックスでは、
そうした事はなく、妻にそうさせた事も無かった。
この仕草を妻に教えた男がいたのである。

普通、女は男からベッドの性のテクニックを教わる。その逆もあるが、
いずれにしても男女の愛戯は一人で習得できるものではない。
必ず相手がいる。一度や二度寝ただけでは、どちらにも遠慮があって、
そこまでの関係には至らないが、何度か寝て、お互いの体が馴染んでくると、
相手に注文を付ける事も出来る。

私は一度抱けば、その女の男性遍歴がわかる。
夫一筋なのか、適当に遊んでいるのか。それも最近の事か、若い頃の事か。
また相手がどんな男だったかまでも。
妻の貞操を疑うなら、ベッドでの妻を、よく観察する事である。
どんな痴態を見せるか、どんな言葉を口走るか。ほかの男とも寝ていたら、
どこかにその痕跡が現われるはずである。


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  1. 夫婦の今と昔
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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