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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 心から愛した女はただ一人。其の二
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心から愛した女はただ一人。其の二

◇ホストの世界
女優001
ベッドの中で、私に好きだと囁いた女は、20人や30人ではない。
惚れた素振りで、私が口説いた女も10人や20人ではない。
しかし女房にしてもいいなと思ったのは、今の妻が最初で、おそらく最後。
今の妻は私にとって、それぐらい価値のある女なのである。

私は妻の不倫に気付かないふりをしていた。私と妻との間に不倫のルールが
確立されていない時に、下手に騒ぎ立てると、元も子もなくす恐れが有ったからだ。

妻が欲望のために、ほかの男に抱かれるのは許せても、
私以外の男を愛するのは許せなかった。
私が責めて妻が反撃して、売り言葉に買い言葉となって、
取り返しのつかない事態に成る事だけは避けなければと思った。

妻には、時間はいくらでもある。
私が家を空けている夜中には妻が自由に使える時間である。
日中は家事が有ると言っても、私はほとんどの時間は寝ているのだから、
たかが知れている。

私はパイプカットをしているので、子供は出来ない。
ホストの多くはパイプカットをしている。パイプカットすれば精力がつくと言う事が、
まことしやかに伝えられた時期があったが、真偽のほどはわからない。

ホストの場合は、相手の女性を安心させるためにもパイプカットは必要で、
いうならば職業上払わざるを得ない犠牲の一つともいえる。

私がいない夜中、妻が家に居ない事が何度かあった。
それとなく口にすると、妻は慌てて弁解しょうとした。
妻に弁解させてはまずいと思った私は、妻の口を封じる様に、
「いいんだよ、オレの居ない時は好きな事をすればいいんだよ」
この一言が妻を楽にさせたようだった。
ある意味では(不倫のフリーキップ)を与えたようなものだった。
しかし、それでも妻は用心深く、以前よりも、いろんなところに気を使うようになった。

たとえば私が帰ると、さっとオシボリが出る。
私は店で汚いオシボリを見ているせいか、オシボリが大嫌いで、
家に帰ると、石鹸をつけてゴシゴシ洗わないと気が済まない質なのである。
こういうことも、私からすれば不自然なのである。


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辻沢杏子09a
妻は私がいない時間帯の出来事を、あれこれと話をするようになった。

妻は私の居ない時間を、ほとんど近くのスナックで過ごしていた。
ママと親しくなって、妻に言わせれば、
「身内の様な親しさ」で出入りしていたようだ。
時には客だかホステスだか、判らないようなことまでさせられているようだった。
店にとって、こういう客は有り難い。
ノーギャラでホステスを雇っているようなものなのだから。

ちょうどカラオケが、ブームの兆しを見せて居た頃だった。
昭和40年後半に神戸・三宮で始まったカラオケが、50年代になってから、
関東でも流行るようになり、それから夜の商売も一変した。
(カラオケ入りました)(カラオケあります)と貼り紙の出ている店に客が殺到。
カラオケのない店は、客が覗いて、何だぁ、と言うような顔をして出て行ってしまった。

よく言われる事だが、カラオケがホステスの質を低下させたと言う。
話題や話術で客をつなぐ必要がなくなったからである。
カラオケの注文を聞いて、客に歌わせて、適当にお世辞を言って居ればホステスが
務まる時代になった。銀座の一流バーでも、下町の三流バーでも同じ事である。

歌の上手いホステスがうける様になった。
歌えないホステス、歌に興味の持てない女は、客からも相手にしてもらえず、
隅の方でじっとしていなければならなかった。
ホストの世界にもそれはいえた。競うようにして歌を勉強した。

勉強しても、急に上手く成れるものでもないが、歌を知らなければ話にならない。
ホストはだいたい若い。自分たちの時代の歌は知って居るが、上の世代の歌は、
関心がないから歌えもしない。

このころホストクラブへ来る客は例外なく金持ちのオバさんだった。
オバさん世代の歌を懸命に覚えたものである。
美空ひばり、島倉千代子、青江三奈、そしてなぜか石原裕次郎。
ちょっと年齢が下がると、石川さゆり、テレサ・テン、沢田研二、西條秀樹・・・。
辻沢杏子10
話がそれたが、妻の交友関係は、
スナックとカラオケを通じて広がって行ったようだった。
「遊ぶのは良い。だが、悪い男にだけは引っかかるなよ」
私はここまで手綱を緩めた。ほとんど不倫を公認したようなものである。

妻の口から、男の事が話題に上がるようになった。しかし処女で結婚して、
私以外の男を知らないはずの、妻のガードは固かった。
なかなか最後の線が踏み切れないようだった。

しかし、いったん一線を越えてからの妻は、これまでの欲求不満を一気に
取り戻すかのように男を漁っていた。
妻の体の上を幾人かの男が通り過ぎていくのが、私にはよく分かった。

あるとき寝物語の感じで「どんな男だった?」と、さりげなく聞くと、
妻は「普通の人よ」と、思い詰めたように言った。

「その男とは長いのか?」
「ううん、まだ・・・」
「もう寝たのか?」
「わかってること聞かないで」
「オレはキミを束縛しようとは思わない。
 オレはオレ、キミはキミの部分があってもいいと思う。
 でも、一つだけ守って欲しいことがあるんだ」
「いったい何・・・?」
「ほかの男を愛さない事だ。オレもキミ以外の女は愛さない。
 これまでもそうだし、これからもそうだ。これは神に誓って言える」
「優しいのね」
「やさしさではない。そのほうが都合がいいからだ」
「そうね、フフフッ」
「適当にやれよ」
「わかったわ。適当にやるわ」
  1. 夫婦の今と昔
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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