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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 小説・大岡川ラブロマンス。其の十九
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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」

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小説・大岡川ラブロマンス。其の十九

◇逃げ廻る女
芸者秘話10-2
パトロンから、「大事な手帳だから、この手帳を持って何処か人目の付かない所で、
暫く身を隠して居てくれないかと」と頼まれたリサ(本名理沙子」が三月二十日に、
横浜から姿をくらましてから、早二ヶ月が経過していた。
逃走資金として現金五百万と、他人名義の信託銀行の額面五千万の信託証券を、
貰いその日から姿を消したのであった。

ブランド物で着飾った派手なホステス姿では不味いので、髪をショートカットにし、
伊達眼鏡を掛けて、どこから見ても普通のOLと言う姿に変装した。
以前勤めていたキャバレーの同僚が、伊東の実家に帰り旅館業の手伝いを
しているのを、思い出し、その元同僚の両親に事情を話して、
「当分の間、此処に匿ってください」と、頼んだ。

昔気質の両親は匿って呉と哀願する若い娘を、放りだす様な事はしなかった。
「ねぇ、毎日ブラブラしていても、仕様がないじないの、何かここで遣って見ちゃ如何?
 そう言う事情なら当分ほとぼり何か冷めやぁしないから、腰を落ち着けて居た方が良いわよ」
親切心から言って呉れた。そう言えばそうである。何時までもお客様では居られない、
何か仕事をしなければ、体は鈍るし、所持金は消えて行くばかりである。

「それもそうねぇ、何かあたしに出来る商売ってあるかしら?」
「無い事も無いわよ。あたしが探して見てあげるわ」
真剣になって色々と考えた。
そんな時、伊豆高原駅の近くで築二十五年の格好な別荘の売り物が出た、
と元同僚の父親が教えて呉れた。

旅館にでも、小料理屋にでもそのまま居抜きで使用出来るばかりか、売値の五千万の
半金を入れて貰えば、後の半金は十年位の年賦で返済して貰えば良いと言うのである。
何人かの買い手が付いたが、元同僚の口添えで理沙子に話が決まった。

元同僚の父親に呼ばれて、娘と母親も同席した中で、
「今理沙ちゃんが表に出て多額の金銭を動かしたり、戸籍を移動したりしたら、
 警察の網に掛かってしまうから、理沙ちゃんは表立った動きはしない方が良い。
 当面は私が当館の別館と言う形で別荘を買い取ってあげるから、
 理沙ちゃんが持ってると言う、信託証券を私に預けない。
 そして現金はチビチビと大切に使いなさい」と有り難い事を言って呉れた。

そして今、その別荘を旅館にして如何にかこうにか遣っていると言うのである。


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芸者秘話10-3
旅館業の経営知識には疎いが、元ゝは接客業のプロ、一週間もすれば、
其れなりの自信も付き、仲居を五人も雇って、今は如何にか目鼻が付いたが、
困るのは帳場の方である、元同僚の母親の指導で、何とか帳面付けはしているが、
電卓やパソコンの取り扱い方は大の苦手、今時は宿泊客の予約の管理や経理事務に、
パソコンは欠かせない。

「誰か適当な人は居ないかしら?支配人と言うような名目で、確かな人が欲しいわ」
と元同僚に頼むと、
「じゃ、どうかしら?少し体が弱くって、あたしの処で半年程養生をしている人が居るの、
 何とか言う雑誌社の編集長を遣っていた人で、パソコンや電卓何て、お手のものよ、
 お金には不自由してないから、寝泊りと食事だけ面倒見て貰えば、給料は当面タダで良いわ。
 余り激しいお仕事は無理だけど、今言った条件であたしが話してあげる」

それで理沙子が元同僚から言われた、倉田光弘に会って見て驚いた。
色の白いきりっとした目鼻立ちの整った美青年で、日本人離れのしたその風貌に、
理沙子の方が一瞬顔を赤くした位であった。

神経痛で右足が不自由と言う話で有ったが、温泉に半年も居るので、
今は余り痛まないと言う。
「余り美味い話なので実は貴女にお会いする前から、お受けする積りで居たのですよ。
 後半年も温泉療法を続けていれば病も全快すると思いますから、お世話に成ります」

きびきびとしたジヤーナリストらしい話運びに、理沙子はまるで小娘の様に成って、
「お願いしますわ。何しろパソコンもろくに使えないあたしですが宜しくね・・・
 其れに、お客さんの中には男の方でないと成らない事も屡あって、
 それはもう困って居たんですよ」

「そうですか、お給料は一銭も要りません。小遣い銭位は夜でも稼げますから・・・
 温泉にタダで入れて、食べさせて貰うなんて、養子の口を見つけた様なものですから」
歳は三十二歳だと言う。未婚者であった。

倉田はその日から理沙子処に来たが、一に理沙子を立てゝ、保健所や税務署、
温泉組合、物品の納入業者等にそつのない応対をして呉れるのが嬉しく、
理沙子は只もう、うっとりとして倉田のやる事、なす事を感心して見ていたが、
束の間に理沙子は倉田を愛し始めた。が、それは理沙子の一方だけの話であって、
倉田は理沙子を女主人として扱って居るのみであった。

「ねぇ、倉田さん、如何してご結婚なさらなかったの?」
夕食のお膳に向かった時訊ねた、倉田は理沙子が付けた一本のお銚子で赤くなっていた。
「結婚はしようと思った事も有ったのですが、何しろ貧乏人の事、つい機会が無かったんですよ。
 それに好きな人も居なかったんでね」
と、言って居たが、それは表面だけの話で、理沙子が何回も同じ事を尋ねると、遂に白状したが、
その話を聞いた理沙子は思わず倉田の顔を見直した。 
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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