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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 異性を誘う匂い。其の二
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異性を誘う匂い。其の二

◆心を許した関係
京都市電
しかし、神は私を見捨てなかった。桜の花の咲くころになって、彼女と再会したのです、偶然に。
そのころ私は学問にも行き詰って、毎日がひどく憂鬱でした。

その夜大学の帰りに、肩を落としてまるで夢遊病者のようにぶらぶらと市電に乗り込んだ時、
とつぜん俯いた顔のまわりがふわっとあの懐かしい匂いに包まれたのです。
驚いたように顔を上げ、あたりを見回すと、なんと彼女が隣に座っていたのです。
私は、あっ、と声を上げてしまいました。

春らしい白いカーディガンを着た彼女と一瞬目が合って、彼女は怖えた表情になりました。
「ああ、すみません」
「いえ・・・」
俯いて彼女は、頬を桜色に染めました。
「お久し振りです」
ついそんな言葉が洩れてしまいました。

話した事も無いのに“お久し振り”もないないだろう。と今にしたら思うのだけれど、
私にすればもう懐かしさがこみ上げてとにかく何か言おうとあせっていた訳です。
「・・・・」
そうですよね。彼女にすれば、何と答えたらよいか戸惑うだけでしょう。
しかし、喫茶店の話を持ち出すと、微かにはにかむ様に笑っていました。

「あの喫茶店に、行きませんか?」
思い切ってそう言ってみました。彼女は、すこし間を置いてから、
はい、と小さく頷きました。

甘くやるせない匂いは、寒かったあの頃よりもっとはっきり漂ってきていました。
しかし其の匂いに、あの中年男の影を感じた私は、ちょつとたじろぐ気持ちになりました。

彼女も「未完成交響曲」が好きだ、と言いました。
で、私は初めてそれを店のウエイトレスにリクエストしました。
あの静かな前奏が流れてくると彼女は、小さく首を傾けて目を閉じました。
そうして私は、南の島の花の蜜に誘いこまれてゆき、胸が震えました。


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恋人
彼女の名は“小依子”私より三つ下の二十歳。
私の大学の近くのわりと大きな染織工房の事務をやっている、とのことでした。
故郷は、福井県の小浜、若狭湾に面した鄙びた町で、実家には母と高校に入ったばかりの
弟が暮らしている、とか。そしてあの中年男は、同じ課の課長だと言うことですが、
もちろんそれ以上に私が聞ける訳でもなし、彼女もまた言葉少なでした。

帰る時にまた逢ってくれるかと訊くと、「私なんかだめです」と言うばかりで、
ついに頷いてはくれませんでした。

私は、諦め切れませんでした。匂いだけでなく、彼女の全てが好きになっていました。
華やかではないが瓜実顔の小作りの鼻や唇だって、よく見るととても愛らしい形をしていました。
性格だって素直だし、持って生まれた聡明さのようなものも感じさせました。

でも正直に言えば、ここまできたらもうあの甘い匂いを肌から直接嗅いでみたい、
という欲望が、さらに押さえがたいものに成っていったと言う事かも知れません。

やっぱりあの中年男と付き合っているのだろうか、不安と戦いながら私は、
次の日から時々彼女の勤め先の門の前に終業時間に合わせて出掛けて行ったのですが、
なかなか逢うことはできませんでした。

一ヶ月たってもう会社を辞めてしまったのだろうかと思っていたところ、やっと私の前に現れました。
どうして、と聞く事はしませんでした。思い悩んでようやく決心がついたと言うことか?。
それとも中年男と別れる為に手間取っていたのか?
もう如何でも良い事でした。彼女は、ふっ切れたように私に心を許してきて、
毎日のようにデートを重ねる関係になってゆきました。

あっと言う間に春が過ぎて夏になり、仕事帰りの彼女の汗ばんだ体から漂ってくる匂いは、
もう蕩けるほどに艶かしくて、会うたびに息苦しくなってしまいました。
初めて男女の関係を結んだのは、八月になって、一緒に比叡山に登った日の夜でした。

延暦寺のお堂巡りをする山道で、彼女の甘い汗の匂いにくらくらして私は、
よろけるようにしてその体にもたれかかって行きました。
比叡山から琵琶湖を望む
やさしく受け取ってくれた彼女は、
「どうしたの、体の具合が悪くなったの?」と訊いてきました。
「うん、もう歩けない」
と私は答えて、彼女を抱きすくめました。
この腕や首筋や頬から伝わってくる肌の感触は、冷んやりしていました。

そして甘く蕩ける匂いを、思い切り吸い込みました。
さらに頭がぼおっと成って、そのまま道端の草むらに彼女輪押し倒して行きました。
「あかんて、こんなとこ、人が来るやないの」

しかし私を受け入れる用意のある事は、経験がなくともわかります。
かまわず唇を押し付けて行きました。唇も冷んやりして、とても柔らかく感じました。
なのにその肌から漂ってくるむせかえるような生温かい匂いは、
私の身体まで溶かしてしまいそうで、なかなか彼女から離れることはできませんでした。

幸い人の通る気配はなく、根本中堂から西塔へ向かう静かな道の途中の事でした。
夕方になって私達は、ケーブルカーで琵琶湖に向かって降りてゆきました。

其の夜は、奮発して大津のわりと大きな観光ホテルに泊まりました。
なんと言っても、私達の初めての夜なのだから。
忘れもしません、1963年8月、東京オリンピックの前の年でした。
太陽族とかアイビールックとかいう言葉が流行していたころで、若者の風俗もそれなりに
進んで来てはいたのですが、なにしろ学問一筋の真面目学生の私がつき合って半年も
経たない内に女性と一夜を共にするなんて、快挙でした。

こんな素敵な展開なんて、まったく予想していませんでした。
一年くらい経って婚約までこぎつける事が出来たら其の時こそ、
と思っていたわけで、それまでにトルコ風呂(現在のソープランド)にでも行って、
一、二度練習しておこうなんて、そんな筋書を描いていたのです。
  1. 妻(夫)を語る
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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