珠江夫人五十歳。其の一
八月も終わりの週であった。私は大学時代、(有機農法)のゼミでお世話に成った。
加藤元大学教授の軽井沢に有る屋敷に呼ばれていた。
書斎の窓の外は油蝉が喧しく鳴きたてている。
濃い藍色の空には銀白色の積乱雲がもくもくと盛り上がっている。
「実は君を男と見込んで折り入っての相談があるのだが・・・」
壁の三面を膨大な学術書に囲まれた書斎で七十二歳に成る加藤先生は、
眼鏡の奥から象の様な優しい目をしばたたかせながら声を潜めた。
加藤先生は私の人生の中で一番の恩人である。
私は農家の長男として生まれたのだが、若い頃は農業が嫌いで仕方なかった、
農業を継がなければ(大学の学費は出さない)と言う頑固な親父に負けて。
群〇大学の農学部に進んだ。
そこで前記の様に加藤先生と出会ったのだが、先生とは学問の恩師と言うだけでなく、
酒と女の先輩としても公私ともども付き合いは長く、自宅にも何度も訪問して
ざっくばらんに物が言える間柄だった。
「なんでしょうか。お金を貸して呉とか、保証人に成って呉れなどと
おっしゃられてもご要望にお応えできませんよ」私はついつい軽口をたたいた。
無論加藤家は経済的には裕福な事を知っていてのジョークである。
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「いやいや、そんな事じゃないんだよ。実は俺達夫婦は今年の九月十日は銀婚式なんだ」
『それはおめでとう御座います。それでご相談というのは・・・』
加藤先生は私の質問に答えようとして急に口をつぐんだ。
書斎の入口のドアが開く気配がしたからだ。
やがて明るい青地の涼しげなワンピース姿の加藤夫人が小さな角氷を浮かべた
アイスティーと水羊羹の小皿を載せた銀製のトレイを持って書斎に入って来た。
いい匂いが私の鼻をうつ。
加藤夫人は年齢五十歳で加藤先生の大学時代の教え子でもある。
妻を亡くして一人暮らししていた加藤先生の後妻として卒業とともに結婚した
中々の才媛なのである。
「高石さん、相変わらずお達者でなによりですわね」
加藤夫人はそう言って私をちらりと一瞥したが、何やら意味有りげな色っぽい一瞥であった。
私も負けずに軽口をたたいた。
「おかげさまで、毎日大自然の中で暮らしていますので、
未だ々歯、目、魔羅ともに元気ですよ』
大学生時代はテニスの選手としても活躍していたスポーツウーマンでもあり、
結婚後もテニスクラブに所属し、市民テニス大会では、純白のテニスコート姿に均整の取れた
魅力的な肢体を露にした加藤夫人を、いささかテニスを嗜む私も何度か見掛けていた。
「どうぞごゆっくり」
加藤夫人は甘い香りを書斎に残して部屋を立ち去った。
「さっき言いかけた通り俺達夫婦は今年銀婚式なんだ。そこで珠江に何が欲しいのかを
尋ねたんだ。品物でもよし温泉旅行でもよし、グルメ旅でも何でも良いからと言ったんだ。
その時珠江がなんと言ったと思う」
加藤先生はそこで思わせぶりに言葉を切った。そして視線を私の下半身に向けた。
「君も知っての通り、俺は若い頃から堅物と言われ、
余りセックスにも積極的では無かったよなぁ。定年退職してから少しはセックスにも励む
つもりだったが、六十五歳の時に心筋梗塞を煩って以来、珠江とのセックスは、
ずっとご無沙汰なんだ。なあ、判るだろう」
『さあ、想像もつきませんね』
其処まで言われれば予測はついたが、礼儀上、わざととぼけた。
「君は、鈍いなぁ。珠江は、ハッキリ言ったんだ。銀婚式のプレゼントには、
(君とのセックス込みの旅行をさせて欲しい)と言うんだよ」
『えっ、私をですか』
「銀婚式のプレゼントにインポの俺に替わって珠江を抱いてやって呉れと言ってるんだ」
『どうして、農夫の私なんかを・・・』
「珠江の奴は前々から、女友達から君の野性的なカリスマチンポの噂を聞かされて、
ウズウズして居たらしいんだ。全く見ず知らずの男では神経使うし、
気心が知れた君となら楽しく遊べそうだと言うんだ。銀婚式当日という訳にはいかないが、
農作業が一段落した十月か十一月ぐらいに珠江と打ち合わせして、
適当な旅館を予約してどこか温泉地なり観光地に遊びに行って呉れないか」
『加藤先生、そのカリスマチンポってなんですか』
「なあに、君の魔羅の事を、熟女達がそう呼んでいるらしいぞ。
女性達は君に魔羅を挿入されただけで気持ち良く成ってイッテしまうらしいんだ。
君は、あっちの方の腕前は中々のものらしいなぁ。
早速珠江と今から打ち合わせしていけよ。
もしなんだったら今日嵌めてもいいぞ、珠江のオマンコをテストしてやって呉れ」
ご主人公認とは言え、やはり躊躇うものがある。すると加藤先生は、
「おーい、珠江~」
と大声を張り上げた。
「はーい、あなた」
加藤夫人がやってきた。
「珠江、あの件は高石君に話したら快くOKして呉れたよ。
あとはお前の部屋で日時と場所を二人で相談しなさい」
「まあ、あなた、そんな事を、お客様の前でおっしゃるもんじゃないわ」
加藤夫人は、ぽっと顔を赤らめた。
「善は急げさ」と先生が言えば。
「じゃあ、高石さん、早速私のお部屋にいらっしゃいませんか」
私は加藤夫人の後ろに従って書斎を出た。
廊下を歩きながら、早くも私は魔羅を勃起させていた。
僅かの刺激でも直ぐに勃起する魔羅の感度の良さは、
時として却って困る事がある。
加藤夫人の部屋は二階の北側にある和室だった。外は残暑の灼熱に喘いで居るのに、
室内は既に冷房を効かせて有ったらしく、とても涼しかった。
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ご挨拶
Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。
生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。
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