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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 小説・大岡川ラブロマンス。其の十六
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小説・大岡川ラブロマンス。其の十六

◇愛に目覚めたチーママ
芸者秘話8-4
アズサが妹と別れて寮に戻って来ると、
「このアマ、もう許さんぞゥ!今までは大目に見て遣ったが、現場を抑えたからにゃ、
 もう許せん!お前の様なアマは懲らしめてやる!畜生メ!思い知ったかぁッ!」
一階のチーママの部屋ではオーナーの田原が今までにない激怒の為に、
大変な騒ぎであった。サツキとミドリの二人は二階に居なかった。

アズサは何事が起きているのか、大方の様子は察しが付いたが、
二階に上がる訳にも行かず、
「どうしたのょう、オーナー」
と、ドアーを開けた途端、アッ!と声を呑んだ。見るとチーママの和子が後手に
がんじがらめに縛られた挙句に、長い黒髪をバサッと崩して、乱れた裾からは
太腿の奥まで覗いている始末。

「どうもこうもねえ、このアマが若い男(大学生)と逢引をしている処を、
 わしが今日抑えたんだ。こう度々わしの顔に泥を塗られちゃ。
 もうこれ以上放って置く訳にはいかネェやな」

県議会の総務と言う地位に有る県政界の大物も、その道に掛けての妬気持ちは、
その辺の裏長屋の亭主と変わりは無いらしく、髭の辺りに唾の泡までくっ付けて、
チーママの太腿の奥まで調べ挙げた様子。
アズサはおかしいやら情けないやらで、吹き出しそうになったが、
「何を言ってるのよ、オーナー、ご自分の事は棚に上げておいて、
 チーママだけを責める事は無いじゃないの!
 あたし、何だったら此処で言いましょうか!」

アズサはオーナーの田原が、赤坂の方で浮名を流している事を聞いていた。
「何を言うんだ、お前は・・・バカな事を言うんじゃないぞ、わしは何も、
 やましい事はこれっぽっちも・・・」
流石の田原も是には度肝を抜かれた。内密に赤坂の若い芸者を水揚げしてから、
今までずうっと面倒を見ている女が居たからである。

「そら、ごらんなさい、これっぽっちも、噂の種を消す材料は無いと言うんでしょ」
アズサは前までは年甲斐も無く、チーママが若い大学生の男と、秘かに逢瀬を
重ねて居る事を軽蔑していたが、こんな泥沼稼業をしていると、どうしても、
自分の身に置き換えて、純真無垢な男に惹かれる事が無理からぬと、思い始めていた。


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高島礼子
チーママの和子は、アズサと同じ信州の生まれで、元は赤坂の芸者で今が盛りの三十歳。
女優の高島礼子に似た美人である。若い頃から小説や文学にかぶれていたせいもあり、
今でもどちらかと言うと文学少女ぽさが抜けない、極めてロマンチストな女である。
野球やサッカーが好きで、野球はDeNAベイスターズ、サッカーは横浜マリノスのファンである。

信州生まれの和子は今でも暇さえ有れば、東神奈川のアイススケート場に行ったりしていた。
芸者上がりに似合わず、洋装が好きで、自分でミシンを踏みドレスなどを自作する器用さも、
兼ね備えていた。情夫の大学生は七つ八つ年下と言う話で、スケート場で知り合ったらしいが、
ミドリの話だと、女の様な色白の美青年で有ると言う。

和子はオーナーの田原にどんなに責められても、
どうしてもその大学生と別れる事は出来なかった。
若くして穂高岳で遭難死した弟の面影があり、
それに、和子の体にはその大学生の種が宿っていた。
一度は堕胎したこともあったが、今では和子は如何しても生みたかった。

例え、田原に捨てられ、チーママの地位を追われて、路頭に迷う様な事に成っても、
彼の子供を産んで見たかった。歳は七つ八つ下でも大学生の気持ちは浮ついた物ではなく、
「僕、何でもして働いて見せます」と、真剣で有るのが和子には嬉しく頼もしく感じていた。

こんな浮き草稼業から一日も早く、すっぽりと足を抜きたいと思う昨日今日である。
それに田原の異常なまでの嫉妬心にも愛想が尽きていた。
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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