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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」 小説・大岡川ラブロマンス。其の二十一
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詩(うた)と小説で描く「愛の世界」

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小説・大岡川ラブロマンス。其の二十一

◇嫉妬
芸者秘話11-1
「千草さんとは志賀高原以来、時々、僕のアパートに来てる事もあり、
 やがては結婚することに成って居たんですがね、魔がさしたとでも言うのか
 僕は千草さんの義姉つまり下田さんの奥さんと妙な関係に成ってしまったんです」
理沙子は呆れた顔をして見せて、
「まぁ!倉田さんって浮気者なのね、いやァなひと・・・それでどうしたのよ」
「その奥さんが酷いヤキモチ焼きなんですよ。僕と千草さんの仲を羨んで、
 無理矢理に他に嫁に遣ってしまったんですがね、何しろ後に成って判った事なんですが、
 その奥さんはえらい浮気な奥さんで、方々に男が居るんですがね、ぼくもそれっきり・・・
 それからずっと、女の人との関係はありませんよ」

と、倉田が語り終わったその話を、夜汽車の中でリサがアズサに話し終わると、
「へぇー不思議な事もあるものね」と、感心する。
「でも良いじゃないの、その倉田さんと出来ちゃったって・・・
 後でパトロンが保釈で帰ってきたら、はっきりと打ち明けて了解を得れば・・・
 一生男の囲い者で暮らすより、倉田さんの様な方の奥さんに納まった方が幸せよ。
 ホステス商売なんて若いうちだけのものよ、歳をとってしまえば何れ見放されて、
 誰からも相手にされなく成るものよ。
 義理は義理、恋愛は恋愛、この際ハッキリした方が良いわ」
「アズサ姉さんがそう言ってくれると、なんだかホッとして安心したわ。
 実を言うとねあたしその事で、浜松に居る兄の処へ相談に行くところだったの、
 もう行かなくてもいいわ、 行けば今度の事件の事で兄の処にも警察の手が
 廻っているかもしれないし・・・」
「お店の方は、私からオーナーやママに旨く話しておくから、倉田さんを陥落させることよ」
リサは静岡駅で下車して一番電車で伊東へ帰っていった。

京都、奈良の旅の宿で、アズサは火の様に燃えて行く自分の体が、虚偽の世界、
砂上に築いた楼閣の様に崩落し去るのがわかった。リサと偶然に車中で会ってから、
「あたしも、こんな男の性の慰み者としての生活から早く足を抜かなくては成らないわ」

真剣に考え始めた。金の為に、あの男、この男と転々と寝床を変えて行くホステス稼業、
華美な衣装に身を飾って、青春を鰹節のように削って行っても、
何一つとして、将来を保証されていないホステス・・・

女の青春は花火と同じである。
パッと燃えて、瞬間、夜空に七色の花を咲かせるが、消えるのも早い。
その短い青春を享楽を求めて彷徨する漁色家に、今日も明日も投出して良いのだろうか?

アズサは下田が飢えた狼のような貪慾さで、
自分の肉体を弄ぶのにも嫌気がさし始めていた。
「ねぇ、しいさん、相談があるのよ」
乳房に顔を埋めていた下田は、双つの乳首を弄りながらぐっと下半身に力を入れた。
「何だ改まって・・・」
前にも言った通り下田はアズサを目の中に入れても痛くない程に可愛い女だと思っている。
アズサが言う事なら、どんな我が侭も聞いて遣る積りでいた。


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芸者秘話11-2
「あたしホステスを辞めちゃいけない?」
「その気にさえなりや、いつでも好いよ。何だったら横浜に店の一軒でも持たせてもいいぞ」
「本当?嬉しいわ、あたしねぇ、もう、ホステス稼業が嫌に成って来たの。
 ちょつとした料理屋でも遣らせてくだされば、結構やっていける自信があるわ」
「それも良いだろう、君なら大丈夫だ」
「妹もついこの間、この稼業から身を退いているのよ。あたしも、妹に負けたくないわ」

アズサはリサや妹の境遇を心の中で羨ましく思っていた。

「負けさせはしないさ。私の耳に入った情報では、若宮町の“銀波”が売りに出そうなんだ。
 オーナーが最近の業績に不安を感じて倒産しない前に有利な条件で店を売却したがって
 居るらしいのだ。あそこは住宅地のど真ん中だから土地も狭いし駐車場スペースも少ない。
 だけど話の持って行き様では、板前や仲居なんかも其の侭引き継げば、
 時間も経費も安くて済む、経営次第では大化けする要素は有ると私は見ているけどね」

下田に取ってはアズサの申し出は渡りの船であった。
料亭“銀波”には彼の金融会社からも多額の融資をしている。
巧く処理すれば、それらの債権も不良債権に成らずに済むかも知れない。
例えアズサを本妻に据えられなくても、
ビジネスパートナーとしてアズサを利用して損は無いと思った。

下田はこの頃流行の金融会社を全国展開していて、相当有利な条件で、
投資家から金を集めて居たが、元々低金利を売り物にしているだけに利潤は
大手金融会社に比べて格段に低かった。“銀波”の様な大口融資先が倒産などしたら、
そうでなくとも自転車操業を続けている今の現状では、彼の会社もヤバイのである。
悪い情報が一寸とでも広まれば投資家は一斉に手を退きかねない。

法的に保証されていない金融会社である。金が集まらなくなれば次々と満期契約者の投資家に
金を支払うと、僅かの間で破綻が来るのは目に見えていた。
そうした事態にも備えて、当局に手を廻して他の金融機関と同様に法的な保証を受ける、
立法的処置が必要であると常に考えていた。

その為には他の金融会社が狙うような銀行法の適用よりは、信託銀行としての転身が
無難のようであった。そうする為には下田はその筋の関係官庁の役人を動かして、
認可を受ける必要があった。連日その接待を続けているが、その為の饗応費が膨大であった。
アズサが料亭を始めれば、費用の節減効果が見越せるのである。

アズサを抱きながら、下田は巧みに算盤を弾いていた。
アズサはそんな算盤を弾く下田の下心も知らず、早川豊と結婚し、
料亭“早川”の女将におさまって采配している、自分の姿を夢描いていた。
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ご挨拶

万屋 太郎

Author:万屋 太郎
2006年9月に初稿をUPしてから
早くも14年が経過いたしました。

生まれ育った横浜を離れて6年前の1月に、
静岡県伊東市に移住いたしました。
山あり、湖あり、海あり、の自然環境はバッグンです。
伊東には多くの文人が別荘を持ち、多くの作品を
手がけて居られるようです、私もあやかって、
この自然環境の中での創作活動が出来ればと思っております。

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